著者 : くっか
槻ノ木汐の妹ー操は、汐のことを軽蔑している。昔は、誰よりも慕っていた兄だった。だがあの日、汐がセーラー服を着ているところを目撃した瞬間に、かつての憧憬は消え去った。なぜ、そんな姿をしていたのか。原因はなんなのか。兄の変化はいつ訪れたのか。それとも、最初からそうだったのか。理由を知るため、操は回想する。現在から過去に遡りながら、汐の生涯を辿る。父の再婚。紙木咲馬との邂逅と別離。最愛の母の死。そして、兄と結んだ約束。汐の抱える葛藤が見えてくるにつれ、槻ノ木家に刻まれた悲哀も明らかになっていくー。
文化祭を終えてから咲馬たちは平穏な学校生活を送っていた。最初はクラスメイトに避けられがちだった汐も、今ではすっかり馴染んでいる。汐がクラスの人気者に返り咲く日も近いーそう思った矢先。咲馬たちの教室に、かつて汐が所属していた男子陸上部の能井風助が訪れる。長距離走者として汐のライバル的存在だった能井は、陸上部への復帰を賭けて汐に勝負を挑む。一方、クラスの問題児・西園アリサが、世良慈と衝突する。挑発を繰り返す世良に、怒りを募らせる西園。やがてその怒りは、彼女を疑心暗鬼に陥らせる。
修学旅行で函館を訪れていた内気な高校生・麦野カヤトは、世界の時が止まるという信じられない現象に見舞われる。自分以外のあらゆるものが静止した街で動けるのは彼一人…かと思いきや、もう一人いた。地元の不良少女・井熊あきら。二人で時を動かす方法を模索していると、麦野は数日前に死んだ叔父の「琥珀の世界」という言葉を思い出す。世界の時が止まったことに関係しているかもしれないと思い立った二人は、時を動かす手がかりを求めて、叔父の家がある東京を目指す。時が止まった世界のなか、二人きりの旅が始まった。
衝撃的な一学期が終わり、咲馬たちは夏休みに突入する。いつもと少し違う、だけど何気ない日常の最中に、ふと頭をよぎる『あの出来事』。汐と向き合わなければならない、そう思う咲馬だが、今は目を逸らすことしかできずにいた。そんな夏休みのある日。咲馬は、汐と夏希の三人で水族館へ行くことになる。三人は『あの出来事』には触れず、楽しい時間を過ごそうとするのだが…。そして二学期ーそれぞれの想いを胸に秘めたまま、文化祭の準備が始まる。慌ただしい学校生活を送るなか、三人の関係は刻々と変化しつつあった。
冴えない高校生・紙木咲馬には、完璧な幼馴染がいた。槻ノ木汐ー美少年的なルックスを誇る彼は、スポーツ万能かつ成績優秀。人望に恵まれ、特に女子からの人気が高い。かつて親友同士だった咲馬と汐だが、高校生になってからは疎遠な関係に。汐への劣等感から、咲馬は性格をこじらせていた。そんな彼も恋をする。相手はクラスの愛されキャラ・星原夏希。彼女と小説の話で意気投合した咲馬は胸を高鳴らせた。だが、その日の夜、彼は公園で信じられないものを目にする。それはセーラー服を着て泣きじゃくる、槻ノ木汐の姿だった。
「ウラシマトンネルって、知ってる?そこに入れば欲しいものがなんでも手に入るんだけど、その代わりに年を取っちゃうのー」。そんな都市伝説を耳にした高校生の塔野カオルは、偶然にもその日の夜にそれらしきトンネルを発見する。-このトンネルに入れば、五年前に死んだ妹を取り戻すことができるかも。放課後に一人でトンネルの検証を始めたカオルだったが、転校生の花城あんずに見つかってしまう。二人は互いの欲しいものを手に入れるために協力関係を結ぶのだが…。かつて誰も体験したことのない驚きに満ちた夏が始まる。