著者 : 田中啓文
江戸時代の大坂は土佐堀川にかかる淀屋橋のたもとで、ぼろぼろの屋形船を住まいとする白鷺烏近。「ご無理ごもっとも始末処」の看板を掲げ、客が持ち込む無理難題を愉快な仲間とともに知恵で解決する男だ。わがままな殿様を懲らしめるため川の流れを逆にしたり、金持ちを長生きさせるためにいるはずのない人魚の肉を探し出したり、となんぎな依頼も白い鷺を黒い烏と言いくるめる烏近にかかれば、パッと解決。愉快、痛快な頓知の曲芸が、あっといわせる人情事件帖。
中国、三国時代末期。「疑」の国は皇帝を傀儡とし、絶大な権力を持つ司馬氏の専横の下、権謀術数が横行し、密告がはびこる世だった。その欲にまみれた俗世間に背を向け、竹林に集い、酒を酌み交わしながら清談に耽る詩人、音楽家、学者、高級官僚などなど七人の男たちがいた。飄々と風雅に語り合う彼らの話題は、ときに持ち寄った謎の話「疑案」に及ぶ。怪異な謎、不可能な謎、不思議な謎等々に、彼らは博識優秀な頭脳を絞って挑むが、一刀両断、明晰に解いてみせるのは、意外な紅一点だったー。
大名家のお抱え絵師だった葛幸助は、今、大坂の福島羅漢まえにある「日暮らし長屋」に逼塞中だ。貧乏神と呼ばれ、筆作りの内職で糊口を凌ぐ日々。この暮らしは、部屋に掛かる絵に封じられた瘟鬼(厄病神)のせいらしいのだが、幸助は追い出そうともせず呑気に同居している。厄病神が次々呼び寄せる事件に、福の神と呼ばれる謎の若旦那や丁稚の亀吉とともに、幸助は朗らかに立ち向う。
レッドキング、チャンドラー、そしてマグラーが相争った「怪獣無法地帯」の真相に迫るー山本弘の表題作「多々良島ふたたび」。希少生物としての怪獣の保護を図る戦闘的環境団体とウルトラマンが対峙するー小林泰三「マウンテンピーナッツ」。生命の危険を顧みない、怪獣類足型採取士の死闘ー田中啓文「怪獣ルクスビグラの足型を取った男」など、SF的想像力でウルトラ怪獣とウルトラマンの世界を生き生きと描く7篇。
豪商・鴻池家の肝煎りで大々的な猫の品評会が開催されることに。猫好きの庶民やお近づきを狙う商人たちが色めき立つ中、市内では不思議な生き物の目撃談が続出してー(「鴻池の猫の巻」)。江戸の秘仏ご開帳を控えてんてこ舞いする雀丸の前に、長崎で医術を学んだという朋輩が姿を見せた。とある件で力を借りたいというのだがー(「ご開帳は大乱調の巻」)。活気あふれる江戸期の大坂を描く第3弾。
芭蕉の辞世の句が見つかった。記念の発句大会で天に抜ければなんと100両!法外な賞金に欲深い連中はあわよくばと目の色を変えている。そんななか横町奉行の竹光屋雀丸は、大坂市中で子供の誘拐が増えていることを知るー(「俳諧でぼろ儲けの巻」)。ほか、思いもよらぬ嫌疑をかけられた廻船問屋・地雷屋蟇五郎のために奮闘する「抜け雀の巻」など、全3編収録の痛快娯楽時代小説、シリーズ第2弾。
武士を捨てて竹光作りを生業とする雀丸。ある日、三人の武士にボッコボコにされている老人を救い出す。庶民の揉めごとを裁く横町奉行だというこの老人は、あろうことか雀丸に跡を継いでくれと言い出した。危険な目に遭っても「三すくみ」という助っ人が馳せ参じるから大丈夫とも。ところが現れたのは悪徳商人に女ヤクザ、破戒僧という面々でー江戸期の大坂を舞台に描く、抱腹絶倒の時代小説。
将軍上洛の報に大坂城は大騒ぎ。饗応の膳を調えることになった西町奉行の久右衛門は献立作りに四苦八苦。そこに東町奉行が名乗りを上げたことから、いつしか東西奉行所同士の闘いにー(「風雲大坂城」)。僧形の一団による押し込み強盗や、鍋奉行を騙る無銭飲食が現れたりと、不穏な空気に包まれる大坂の町。そんな中、同心の村越勇太郎は一大決心を固めー(「偽鍋奉行登場!」)。シリーズ第8弾。
シャーロック・ホームズとアルセーヌ・ルパンーミステリ史に名を刻む両巨頭の知られざる冒険譚から、赤穂浪士の討ちいりのさなか吉良邸で起こった雪の密室殺人、シャーロキアンのアドルフ・ヒトラーが戦局を左右しかねない事件に挑む狂気の推理劇、小泉八雲が次々と解き明かす“怪談”の真相までー在非在の著名人たちが名探偵となって競演する、奇想天外な本格ミステリ短編集。
大坂市中を見廻っていた同心村越勇太郎が謎の集団に襲われた。肩には手裏剣による傷がー天下泰平の世に忍者が暗躍している!?同じ頃、町奉行所の料理方募集に応募してきたのは怪しげな男たちばかり。そのうちのひとりが作った料理は、美食家の町奉行大邉久右衛門ですら初めて味わうものだった(「忍び飯」)。他に公家一家から猫を盗もうとする一味との戦いなど、全3編収録のシリーズ第7弾。
1549年、宣教師フランシスコ・ザビエルは海路日本を目指すその途上、海中から出現した忌まわしいものに遭遇した。日本に辿りついた彼が布教しはじめたその教えは、それまで彼が信じていた神とは違う神への信仰であった。それから88年の時を経て徳川家光の治世。島原・天草の農民たちは苦しい年貢に追いつめられていた。キリスト教への改宗とその弾圧が繰り返され、ついに大穴山に眠る巨大神が長い眠りから目覚める。暗躍する豊臣の残党。天下の騒乱を目論む天狗たち。そして神の子天草四郎は恐るべき力を開放しようとする。巨大な魔神像と異形の邪神との決戦の舞台は原城へ…。戦慄の時代伝奇クトゥルー作品。
最後の地球人と地球の支配者イルカの邂逅「イルカは笑う」、倒産した日本国が遺した大いなる希望「ガラスの地球を救え!」、ゾンビ対料理人「屍者の定食」、失われた奇跡の歌声が響く「歌姫のくちびる」…感動・恐怖・笑い・脱力、ときに壮大、ときに身近な12の名短編。日本人よ、これが田中啓文だ!
大坂の町に、将軍家治のご落胤「天六坊」なる者が現れた。すわ天下を揺るがす一大事!のはずが、こんな時でも大食漢の西町奉行・大邉久右衛門の頭の中は美食の探究一辺倒。貧乏飯屋「業突屋」のトキ婆さんからもらったハゼを天ぷらにしたのだが、どうにも口に合わない。実は大坂と江戸の天ぷらには大きな違いがあって…(「ご落胤波乱盤上」)。他、型破り奉行が大活躍の2編を収録。シリーズ第4弾。
大坂庶民の夏の楽しみといえば、天神祭と鱧料理。だがこのところ、刀ばかりを狙う賊徒が横行し、東西町奉行所の与力や同心たちは祭どころではない。能天気なのは食い道楽の奉行・大邉久右衛門のみで、騒ぎをよそに料理方の源治郎に鱧の骨切り修業を言い渡す始末。その目的が噴飯ものでー(「地車囃子鱧の皮」)。他、極上の献立が彩る2編を収録。鍋奉行の名裁きが魅せる食いだおれ時代小説第3弾。
美貌の警部にして、陰陽師のベニー芳垣は、占筮の最中、伊原塚という男に、怨霊による殺害の危機が迫っていることを知る。陰陽の力で男を護ることを命じられたベニーは、伊原塚の部屋の周囲に“最高の結界”を張り、万全の態勢で怨霊を待ち受けるが、はたして伊原塚は無惨に殺されてしまうのだった。邪鬼の侵入を完璧に防ぐはずだった結界はなぜ破られたのか!?前代未聞“異界の密室殺人事件”発生!陰陽師&鬼コンビ、再び。
警視庁忌戸部署に、アメリカから美しき警部がやってきた。凛々しい総髪に、宝石のような碧眼。あまりに優秀だったため、在籍していたロス市警が、長年手放さなかったという。名はベニー芳垣。裏の顔はなんと凄腕の陰陽師。しかし、彼が相棒に選んだのは、鬼丸という署内で最もさえない刑事だった。一体なぜ!?そんな中、人間の仕業とは思えない眼球が左右逆にはめ込まれた死体が発見され…!?“異形”コンビが奇怪な事件の真相を追う!
道頓堀に巨大なタコが現れた。対処に大わらわの大坂西町奉行所の面々をよそに、大食漢の名物奉行・大邉久右衛門が用人・佐々木喜内に命じたのはー(『蛸芝居』)。連日連夜、豆腐ばかりの献立に、久右衛門は爆発寸前。どうやら財政難のせいばかりではないようでー(『地獄で豆腐』)。書き下ろし1編を含む垂涎必至の4編を収録。大坂を舞台に描く、謎あり恋ありグルメありの食いだおれ時代小説第2弾。
シャーロック・ホームズ&アルセーヌ・ルパン、ミステリ界が誇る両巨頭の新たなる冒険譚。赤穂浪士討ちいりのさなか吉良邸で起こった雪の密室殺人。あのアドルフ・ヒトラーがじつは大変なシャーロキアンで…。ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が日本に来た本当の理由とは。著名人の名推理に酔いしれる、連作短編集。奇才・田中啓文が贈る、ミステリ五番勝負!