出版社 : 幻冬舎
月と現世の住人が織りなす異色のSFミステリー。夏も終わりかけた8月下旬。東京で順調にキャリアを積んでいた佐伯俊夫は、I県・月ノ石町に異動を言い渡される。この地には「月待池」という池があり、赤いトパーズが採れる伝説があった。しかし、採取した者の不吉な末路から、かつてより「憑き魔血池」と忌諱されてきたのだった。この伝説を知った佐伯は、事業で計画中の記念碑に何としても赤いトパーズを使用したいという衝動に駆られ、現在は立ち入り禁止となっている「月待池」に向かう。少しずつ、しかし確実に崩壊していく日常の向こうにあるものは一体ー。
ホテルは文化である。経営理念の実現と合理化や人材難との狭間で懊悩する孤独なオーナー経営者。大手外資系ホテルとの提携交渉の末にたどり着いた先は…。京都の老舗グランドホテルの裏側で繰り広げられるホテルマンたちの闘い。
二度目の大学受験に向けて勉強に精を出す青山雄太は、ひょんなことから九段衆議院議員宿舎に入居することに。様々な政界の人物との交流の中、懇意になった議員子女・貴美子に政治の道を進められるが…。思いがけず議員宿舎の住民となった雄太が目にした、60年代の混沌たる政治情勢と、青年時代の刹那的な煌めきを描いた郷愁誘う青春小説。
新宿署の刑事・佐江は、警察の不祥事に関わり自らも死の縁に立った事件を経て、退職を決意していた。そんなとき、所轄違いのH県警捜査一課から、3年前に起きた未解決事件への捜査協力を求められる。なんでも、行方不明だった重要参考人が、「佐江の護衛さえあれば出頭する」とメールを寄越したというのだ。“重参”の名は阿部佳奈。面識すらない女が、なぜ無頼な中年刑事である自分を頼りにするのか?罠か、事件解決への糸口か。ただ真実だけを求めて、佐江はH県に向かうー。
行き場をなくした女たちが集う浅草の置屋「燕屋」の前に、一人の赤ん坊が捨てられていた。かつて自らの子を亡くした遊女の千代は、周囲の反対を押し切って育てることを決める。お雪と名付けられた赤ん坊は、燕屋の人々に囲まれながら、明治から大正へ、浅草の賑わいとともに成長した。楽しみは芝居小屋に通うこと。歌って、踊って、浅草オペラの真似をして、毎日はあんなに賑やかで幸せだったのに。あの男がすっかり台無しにしたー。
東京のバーベキュー場で起こったヒ素による大量殺傷事件。記者の勝木は、十二年前の灰戸町一家殺害事件の、ただ一人の生存者、赤井三葉を思い出す。あの日、薄汚れたゴミ屋敷で一体何があったのか。そして少女は今ー。「ざまあみろって思ってます」北海道灰戸町。人々の小さな怒りの炎が、やがて灰色の町を焼き尽くすー。
泥の中から這い上がる気力をもつ者だけが、勝者となりうる。進路も決められないまま、高校3年の夏をぼんやりと過ごすヨシオ。部屋の中から通行人にシャドーパンチを繰り返しても、心は満たされない。パッとしない日々を変えたのは、散歩中に見つけた、古びた道場だったー。格闘技と出会った青年の生き様を描いた、熱気あふれる小説。
王さまからの突然の指令にはじまった、王子と王女の強いもの探しの旅。彼らが各国を渡り歩き、辿り着いた「本当の強さ」とはー。今こそ親子で楽しみたい、平和を考える物語。
父の失踪以来、沈む太陽が怖かった咲希。彼女の描く夕日は、死の象徴なのか、希望の光なのか。精神科疾患のある多くの患者と向き合ってきた看護師の著者が紡ぎ出す、心の苦しみに寄り添ったラブ・ストーリー。
世界中の注目をあつめる指揮者と、彼が忘却の彼方に仕舞いこんだチェリスト。二人が出会い、生み出すハーモニーは抱えた深い悲しみをも包み込んでいく。『白鳥』が結ぶ切なくも美しい愛の物語、開幕。『ラ・カンパネラ』、『愛の挨拶』、『新世界』、『G線上のアリア』クラシックの名曲が彩る、珠玉のラブストーリー。-名門オーケストラを舞台に、愛のシンフォニーは美しいハーモニーを紡ぐことができるのか。
大手証券会社に勤める春彦は、郁子と順風満帆な結婚生活を送っていたがある日を境に郁子は塞ぎ込むようになり、その変わり果てた姿に頭を悩ませていた。そんな時郁子の姉である亜希子が2年越しに帰国し、2人の元を訪れるがー。
1970年代始め、テレビCM業界の末端に潜り込んだ21歳の吉野洋行は、持ち前の度胸の良さと個性的なアイデアを武器に、10年を経ずして、業界大手の制作会社でヒットを連発する監督にまでのし上がった。だが、ある出来事をきっかけに組織のコマとして生きることに限界を感じ、自らの会社を立ち上げる。才能に溢れた若い仲間たちと共に大海原に漕ぎ出した洋行の前には、「バブル」という大波が迫っていた。
造り手たちの物語と、人生が重なり合う。幼い記憶に残された、母親との思い出の香りを求めタイムトリップを続ける香織。旅の先で辿り着いた真実とはーワインの歴史が人を紡ぐ、心温まるファンタジー小説。
紗世子とゆたかは、小学生の頃から、毎日互いの家を行き来する幼馴染だった。男のような名前のゆたかを、紗世子だけは「ゆかちゃん」と呼ぶ。初めて出会った瞬間に抱いた想いを、それぞれの胸に秘めたまま、10年の時が流れた。高校生になったある日、紗世子は好きな「女の人」がいることをゆたかに告白し、付き合い始める。苦しみに耐えながら友達を続けるゆたかだが、それこそがまさに、紗世子が本当に望んだものだったー。膨らみ続けた純粋な想いは、むせ返る百合の香りのように強く、二人の少女を縛り付け、美しすぎる悲劇となる。
鹿児島県知事として奄美大島の視察へ訪れた光三。薩摩藩の支配下にあった黒糖地獄の時代から本土に利用され、搾取され続けてきた島の姿に衝撃を受ける。その社会構造を打破するべく、男が下した驚愕の決断とはー。南の島に変革をもたらそうとした男の勇姿を描いた近代政治小説。
時が流れても変わらず相手を想い続ける富士子、愛する人へ罪悪感から究極の答えを選択する美雪、自分よりも大切な、守りたい存在を見つけたふく、時代の大きな変化のなかで、自分らしさを貫き続けた人々の愛おしさに光を当てた短編小説集。
事務職のアルバイトをそつなくこなしながらもどこか物足りない毎日をすごす、琴。ある有給休暇の金曜日、気が付くと知らない場所にいた。そこは夢と現実が交差する不思議な空間でー。彼女の「自分を探す旅」がいま始まろうとしていた。気がつくとそこは静寂に包まれる森の中だった。傍らには眠りこける黒猫に、鉛筆と消しゴムとスケッチブック。あざやかに紡がれる幻想的な物語。
亜希と茗子の唯一の共通点は育児ブログを覗くこと。一人は、憧れを持って。一人は、憎しみを抱えて。ある日、ブログ執筆者が失踪したことをきっかけに、二人の人生は交わり、思いがけない地平へと向かう。私たち、何を、どこに向かって、頑張ればいいのー?自分だけの光が見つかる、心震える物語。