出版社 : 筑摩書房
しずかな波音、やさしい食事、ぬくもる温泉、そして何よりあなたのための一冊を。戦前から続く海辺の老舗旅館・凧屋の名物は様々な古書を収めた文庫=図書のコレクション。少しばかり“鼻が利きすぎ”な若女将がすすめてくれる「お客様と同じにおい」を纏った文豪たちの小説が、訪れる人の人生を揺らすー。
マッサージ店で勤務する柳田譲、44歳、独身。傷つきやすく人付き合いが苦手な彼の心を迷惑な客や俗悪な同僚、老いた母や義父が削り取っていく。自分が暴発してしまうまえに自死することだけが希望となった柳田をさらに世界の図らざる悪意が翻弄するー。第39回太宰治賞受賞作。
売れない新人作家・柳佳夜は自作の感想を求めてエゴサに明け暮れるうち、同姓同名のVTuberを発見する。魔界への帰還を目指す吸血鬼という設定のVTuberはまたたく間に人気配信者となり、むしろ自分になりすまし疑惑がかけられ、柳はVTuberの正体を突き止めようと奔走するがー。
2014年にロンドンで実際に起きた占拠事件をモデルとした小説。ホームレス・シェルターに住んでいたシングルマザーたちが、地方自治体の予算削減のために退去を迫られる。人種や世代を超えて女性たちが連帯して立ち上がり、公営住宅を占拠。一方、日本の新聞社ロンドン支局記者の史奈子がふと占拠地を訪れ、元恋人でアナキストの幸太もロンドンに来て現地の人々とどんどん交流し…。「自分たちでやってやれ」という精神(DIY)と、相互扶助(助け合い)と、シスターフッドの物語。
算数で「平行」を習ったときから、ひとには見えない黄色いレインコートに身をつつむことになったホラウチリカ。ある日、大学の恩師から紹介された仕事は古代ローマの女神像のおしゃべり相手だったー。誰もがコミュニケーション不全を抱える世界で、有機物と無機物の境界すら越えて、わたしとヴィーナスは手に手を取り合い駆け出していく。新しい関係性の扉をひらく無敵のシスターフッド小説!!
『キム・ジヨン』の多大な反響と毀誉褒貶、著者自身の体験を一部素材にしたような衝撃の短編「誤記」ほか、10代の初恋、子育て世代の悩み、80歳前後の姉妹の老境まで、全世代を応援する短編集。
都心の古ぼけた団地で、姉と二人つましく暮らすみかげ。時代の吹きだまりのような場所で、明るい未来が思い描けず「死」に惹かれる彼女の前に団地警備員を名乗る老人が現れ、日常は変わり始めていくー。
親密な関係なのに、心がすれ違う、「君」と「私」の変奏曲。『娘について』『中央駅』など、疎外された人々の視点から韓国社会を描いてきたキム・ヘジン。胸に迫る8つの傑作短編!さびれた教会前で野良猫に餌をあげていた私に話しかけてきた君と、地域の再開発話。大学新聞に所属する私と君と、ある嫌疑をかけられる先生の話。パーティで好奇と同情の目にさらされ、当惑する同性カップル。同等な存在だと思っていたのに、亀裂が入る君と私。寂寥感と抒情があふれる。
“Speak English!”ちゃんとしゃべって。メグが大声でそう叫び、崇は口封じのひとことに動けなくなった。今まで、このひとことを何度叫ばれたことだろう。言いがかりをつけてくる客、雇用斡旋所の係員、そして、通りすがりの見知らぬ他人…。しかし、娘のそれには大人が口にするときの悪意は皆無だった。そこにはただ、純粋な懇願だけがあった。その奥底には、意志疎通を求め、会話を、言葉を欲しがっている小さな女の子と、やもめ男ののっぴきならぬ事情と、彼ら親子のただならぬ状況が横たわっていた。叫んだあと、メグはトーチャン、トーチャン、トーチャン、と甘えたようにすり寄ってきた。英語がわからない父親と日本語がわからない娘が、オーストラリアの地でつむぐ言葉と音楽の物語。
関東のはずれの町に暮らす高校生、ワラ、ディノ、タンシオ、ギモ、テンポ、リスキ。彼らはそれぞれに傷ついた少年少女たちだった。戦わないで自分自身の大切なものを守りたい、そんな思いから彼らは包帯クラブを結成する。その活動を描いた前作『包帯クラブ』から16年。本作は前作の終わりから話が始まる。場所に包帯を巻く活動は、無理解や反発などを受け、自粛を余儀なくされる。しかし、ひっそりと集まりバンド活動を始める彼ら。発表の場を求めながら、さまざまな人と出会い、再び物語は動き出す。本作では、未来の、成人した彼らの姿も交差して描かれる。この世界にあふれた悲しみのひとつひとつを手当てすることは難しいが、だから何をしたってむだ、とは言いたくない。自分たちのやり方で、自分を守り、大切な人たちを守ろうと踏み出す彼らの第二幕が開く。
韓国の首都、ソウル。貧困層が住む最底辺の住宅「チョッパン」を取材する記者が苦心の末にたどり着いたのは、「見えない」富裕層による貧困ビジネスの実態だったー。チョッパン街住民の声、自身の貧困経験や徹底した調査をもとに、新自由主義がまかり通る社会に問いをつきつける迫真のルポ。
幼い頃に母に棄てられ、施設で育ったひかる。ふとした瞬間甦るあやふやであたたかな記憶、そして手元に残された母子手帳が唯一の母とのつながりだった。ある日、公園のベンチで拾ったのは、自分と同じ名前、生年月日の母親が落とした母子手帳。他人とは思えないもう一人のひかるがどんな母親なのか見届けるため、ひとり待つー。『birth』は第37回太宰治賞受賞作品。『彼女がなるべく遠くへ行けるように』は第34回太宰治賞最終候補作品を加筆修正。