著者 : ベティ・ニールズ
一緒に住んでいた兄が結婚するのをきっかけに、看護師クリスティーナは生活の場をオランダに移そうと決めた。兄の美しい婚約者に邪魔者扱いされて悩んでいたときに、ちょうど仕事を紹介してくれる人がいたのだ。希望に満ちてオランダへやってきたものの、現実はそう甘くない。何よりも、怜悧な美貌の院長ドゥアートが平然と、クリスティーナを無視するばかりか、批判的な態度すらとる。「君は美人でもないのに、ずいぶん自分に自信があるんだな」着任するや浴びせられた言葉に、彼女は頬をこわばらせた。
看護師のチャリティはオランダを旅行中、急病患者を助けた。そこにたまたま居合わせた医師はどこか惹かれる男性で、チャリティはのちのちまで彼のことを忘れられなかった。とはいえ、名前も知らないその人とまた会えるはずもないけれど。心にめばえた淡い恋をあきらめていたチャリティだったが、仕事で訪れたオランダの病院で、思いがけずその男性ーエフェラルド・ファン・テイレンと再会を果たす。けれど、彼の態度はひどく無愛想で、そっけない。また会いたいと夢にみるほど願っていたのは、私だけだったんだわ。チャリティの心は曇った。それが、つらい片思いの始まりだった…。
レディ・クレスウェルー白血病の疑い。61歳。近親者、チャールズ・クレスウェル教授…。「ああ、どうしてこんなことになるの」ジュディスはつぶやいた。勤務先の病院に、まさか彼の母親が入院しているなんて。1カ月の休暇から戻った看護師のジュディスは、書類を見て愕然とした。病室の巡回で、見舞いに来たチャールズと会いませんように。彼は休暇で滞在した湖水地方で会った、礼儀知らずの歴史学者。本の執筆に夢中で、わたしのことなど少しも気遣ってくれなかった。でも、彼の家の見事な庭を思い出すと、懐かしさに涙が出そうになる。ところが再会したチャールズは、意外な提案をして彼女を驚かせた。母親の専属看護師として、彼の家に来てくれないかというのだ。
フラニーは看護師になる夢をあきらめ、病気の伯母と医大生の弟のために家計を支えようと職探し中。さる夫人の雑用係の求人広告を見て応募するが、面接で断られてしまう。意気消沈して帰りかけたとき、その家のメイドが負傷し、偶然現れた夫人の知り合い、ヴァン・ダ・ケトゥナー教授を手伝って、けが人に処置をほどこしてから病院へ運んだ。年上の教授に胸をときめかせるフラニーだったが、病院に着いたところで置いてきぼりにされ、とぼとぼと家路についた。その後、彼女を捜しに戻った教授と入れ違いになるとは、つゆも思わず。
婚約者にほかに女性がいると知って、サファーは病院を辞め、専属看護師として、ある老男爵夫人の屋敷に勤めることにした。ところが男爵家の嫡子、ロルフ・ファン・ドイレンの存在が、すべてを忘れたい、傷ついたサファーの心を波立たせる。冷たい態度で接する一方で、サファーを見つめる目が熱い。真意がつかめないサファーは、その奇妙な誘惑に戸惑いつつも、秀麗な貴公子ぶりの美貌の彼から、磁石のように目が離せない。ある日、ロルフに思わせぶりな言葉を囁かれ、動揺した。「僕には好きな人がいるが、その人には恋人がいる」とー。
病院で電話交換手をしているエミーはある日、人に頼まれて、高名なオランダ人医師で教授のルエルドに書類を届けた。初めて会う教授はよそよそしくて人を寄せつけない雰囲気で、追い払われるように部屋を後にした彼女は、しょんぼりと家路に就いた。ところがその後、ルエルドは夜勤明けのエミーを家まで送ってくれたり、子猫を拾って上司に叱られているところをかばってくれたりした。なぜ地位も名誉もある魅力的な彼が、地味で平凡な私に親切を?エミーは喜びと困惑の間で揺れたー彼には、美しい婚約者がいるから。なのに、ルエルドはなぜか彼女をクリスマスのオランダに招待し…。
掃除、洗濯、買い物、食事の支度…家事のいっさいをこなしながら、セリーナはこの数年間、病人を決めこむ気難しい父の世話をしている。ある日、少しだけ休息を求めて近くの丘にのぼると、いつもは誰もいない頂上に、見知らぬ男の人がいた。年上の彼は初対面なのになぜか親しみが湧き、つかの間ではあったけれど、セリーナは純粋な幸福感をおぼえた。それからすぐに父が心臓発作で倒れ、主治医の友人として現れたドクター・ファンドーレンを見て、彼女はあっと驚いたー彼こそ、丘の上でセリーナの胸をときめかせた、あの男性だったのだ!
領主に末裔ながら、現在は貧しい暮らしをするクロスビー家。一人娘のレオノーラは若い娘らしい華やかな生活とは無縁で、ばあやと一緒に、家政能力のない両親の世話をしている。あるとき村の老医師が倒れ、新しい医師ガルブレイスがやってきた。先日、みっともなく転んだところを助けてくれた彼との再会に、恥ずかしいような、嬉しいような思いがレオノーラの胸に湧いた。その感情がいったいなんなのか、自分でもわからなかったけれど…。そんなある日、レオノーラがつらい出来事に見舞われて必死に涙をこらえていると、ドクター・ガルブレイスが言った。「誰かの肩にすがって泣きたいときは、いつでも声をかけてくれ」
デイジーは、海辺の小さな町で父親の骨董品店を手伝っている、控えめで物静かな平凡な娘だ。ある日、浜辺を散歩していた彼女は、すてきな男性に出会う。彼はオランダの医師でユールス・デル・ホイズマと名乗り、数回店を訪れて、デイジーは淡い恋心を抱いてしまう。すぐに彼には婚約者がいると知らされて、かき消したけれど。ところが彼女は、ある骨董品をオランダまで運ぶことになり、ユールスと再会するのだ。運河に落ち、助けを求めた手を彼がつかんでひっぱり上げるという冴えない状況で。
デボラは出会ったときからヘーラルトに恋をしていた。彼は優秀なオランダ人医師で、心から信頼できる理想の男性。でもみんなの憧れの的だから、わたしの恋は成就しそうもない。そのヘーラルトから、ある日突然、こう尋ねられた。「僕と結婚する気はないか?」呆然とするデボラに、彼は落ち着き払ったまま言い添えた。「深い感情は持ちたくない。形だけの妻が欲しいんだ」こんな冷たい申し出を、プロポーズと呼べるのかしら?すっかり落胆したものの、デボラの胸にはかすかな希望も芽生えた。たとえ片思いでも、愛する人とずっと一緒にいられるのなら…。
ロンドンで病院勤めをするセリーナは、車の事故で入院してきたオランダ人男性と出会う。長身で金髪の彼は入院初日から気さくに話しかけてきて、仕事を辞めて僕とオランダに来ないかと熱っぽく誘った。そんな強引さに不安を感じながらもきっぱり断れないセリーナを、患者の従兄弟で、オランダで医師をしているというヘイスは、いつも紳士的に気遣ってくれるのだった。やがてオランダへ渡ったセリーナが不実な恋人の裏切りに遭い、途方に暮れているときも、助けの手を差しのべたのはヘイスだった。彼は落ち着いた声で、それなら僕と結婚しないか、と申し出た。
牧師の娘フィリーは気立てがよく、家族の面倒をみている。ある日、道に迷った魅力的な医師ジェームズを案内し、密かに心をときめかせるが、彼には美しい婚約者がいた。富も名声もある彼と、ただの家事手伝いをする村娘の私では、そもそも釣り合わないし…。あきらめようと思っても、その後も彼と偶然の再会をし、フィリーの心は切なさを増すばかりだった。(『ドクターにキスを』)。目が覚めると、フィリッパはすべての記憶を失っていた。聞けば、挙式直後に車で失踪し、事故を起こしたらしい。そんな彼女の前に、魅力的だが謎めいた実業家コラッドが現れるーこの人が私の夫?体が熱く反応し、自分が彼を愛していると本能的に悟った。だが、亡父から相続した遺産を、結婚と同時に彼へ譲るという契約書を発見し、彼女は胸騒ぎに襲われ…(『愛だけのために』)。母が死に際に詳細を明かした実の父に会うため、キャサリンはイタリアへ飛んだ。そこで待ち受けていたのは、ダビデ像のように美しい大富豪アレッサンドロ。父の若き友人である彼は、妻に先立たれて男手一つで息子を育て、もう結婚はしないつもりだった。そうとは知らないキャサリンは、父を待つ間、親身に話を聞いてくれる彼にどうしようもなく惹かれていく。(『結婚はナポリで』)
コーデリアは父亡きあと、継母にずっと粗末に扱われてきた。だから、住み込み家庭教師の職を得たときはうれしかった。しかも教え子の少女の同行で、ウィーンに赴くことになったのだ。少女の伯父の家にしばらく滞在するのだという。伯父のチャールズは長身の、とてもハンサムな麻酔医だった。冴えない容姿の彼女をちらりと見るや、見下した顔をしたので、コーデリアは芽生えかけた恋心を封印した。永遠にーでも人々は言うのだ。ウィーンには不思議な魔法がある、と。だから願わずにはいられなかった。先生に魔法をかけられたら。
見習い看護師のアグネスは夜勤明けに講義に出席したとき、最前列のまんなかだというのに思わず居眠りをしてしまい、オランダ人外科医フラーム・デル・リンセンに叱責された。長身で肩幅の広い彼がぱりっとした服を着た姿はいかにも魅力的で、壇上の彼を見上げる周囲の女性たちは恍惚のため息をついている。アグネスはデル・リンセン医師の冷たく光る碧眼に射られ、赤面した。「君は尊敬心に欠けている。それに厚かましい」ああ、もしも姉みたいに美人だったら、こうは言われなかったのかしら?自分への自信のなさと淡い想いとに心乱れるアグネスだったが、それからまもなく、ひどく惨めな姿を再び彼に目撃されてしまう!
ヘルパーのアラミンタは、浪費癖のある父と病弱な妹の3人暮らし。母が早くに他界したあと、仕事も家事雑用も全部一人でこなしてきた。あるとき、上流階級の医師ジェイスンの屋敷に派遣され、彼の妹の子供たちの世話をすることになった。真面目でハンサムな彼に心惹かれていくが、契約は半月あまりで終了。次の仕事は老人の世話をする過酷な労働だった。ところが1週間が過ぎたとき、ジェイスンが不意に訪ねてきて、なんとアラミンタに結婚を申し込んだのだ。“今は愛していなくても、一緒に暮らすうちに愛が生まれればいい”と。ただ彼のそばにいたくて、プロポーズを受けたアラミンタだったが…。
冬のさなか、病床にあったメグたち三姉妹の母親が亡くなった。家を売って、お金は姉妹で分けましょうという長女の提案に、ロンドンで華やかに暮らす、美しい末娘も大賛成。家を守り、母の看病に明け暮れていた次女のメグは気が重いが、自己主張が苦手で、一言も反論できないままだ。ところが、ふたを開けてみるとなかなか買い手がつかない。誰もこの家を買わないかもしれないわーと思い始めたころ、長身のハンサムな医師が現れた。メグは胸をときめかせるが、彼は母のために家を探していると言い、メグを見もしなかった。
ロンドンの病院で看護師長をしているジュリアは、週2回、彼女のいる婦人内科へ回診にやってくるオランダ人医師、ファン・デル・ワーギマー教授と折り合いがよくなかった。女性看護師の大半が、有能でハンサムな彼に憧れているが、ジュリアには無愛想で、ときに意地悪とも言える言葉をかけてくるのだ。だが、教師である父が彼の息子の補習を引き受けたのを機に、彼女はファン・デル・ワーギマー教授の私生活を知るようになる。妻との死別、息子の寮生活、そして…近々、結婚予定があることを。予期していなかった事実を聞いて胸がちくりと痛み、ジュリアはいつのまにか彼に恋していた自分を戒めるのだった。
ロンドンの病院で働く二十歳の見習い看護師ベネチアは、近くの店の爆弾騒ぎで腕を負傷し、かの著名なオランダ人脳外科医デュアルト・ター・ラーン・ルティンガ教授に処置してもらうことに。かすかな意識のなか見上げた教授のハンサムな顔ーそのとき、乙女の小さな恋は始まったのかもしれなかった。やがて、唯一の家族だった祖母が急死し一人残されたベネチアに、彼女の気持ちを知ってか知らずか、教授が突然プロポーズをしてきた。オランダで後見することになった孤児の少女が手に余り、模範的な家庭生活を示すために、妻役を演じてほしいというのだ。愛のない結婚は本望ではないと、泣く泣く拒むベネチアだったが…。