著者 : 山本周五郎
袖摺り合わせた者同士が、共に生きる。形式や世間体にとらわれることなく、思い思われて結びついた縁の、大切さ、頼もしさ、温もりーー切なくてほっとする作品群。『むかしも今も』『並木河岸』他12作品収載。
想い合い、支え合いながら、静かに日々を生きる人々のまるで祈りのような人生の数々。一途に相手を想い、明日を描く…その純粋なひたむきさが胸に迫る佳篇群。『松の花』『その木戸を通って』他15作品収載。
「待つ」とは未来を信じること、あるいは明日へ向かう強い意志。ひたむきに人を待つ美しさ、ひたすらに期(とき)を待つ凄まじさ…生に期する力を捉えた充実の名作群。掲載作品は、『内蔵允留守』『柘榴』『山茶花帖』『柳橋物語』『つばくろ(燕)』『追いついた夢』『ぼろと釵』『女は同じ物語』『裏の木戸はあいている』『こんち午の日』『ひとでなし』の11作品。
「あるべき」姿と「ありたい」姿。その狭間で人々は迷い、悩み、思い惑う。そのことが人を変え、運命を動かす。行くべき姿を探る人々の姿に、人生の実相をみる作品群。掲載作品は、『晩秋』『金五十両』『泥棒と若殿』『おたふく』『妹の縁談』『湯治』『しじみ河岸』『釣忍』『なんの花か薫る』『あんちゃん』『深川安 楽亭』『落葉の隣り』の12作品。
敵か? 味方か?お前はどちらだ。仙台藩主・伊達綱宗は幕府から逼塞を命じられた。放蕩に身を持ち崩したからだという。明くる夜、藩士四名が「上意討」の名の下に次々と斬殺される。疑心暗鬼に陥り混乱を来す藩政に乗じて権勢を増す、仙台藩主一族・伊達兵部と幕府老中・酒井雅楽頭。その謀略を見抜いた宿老の原田甲斐はただひとり、藩を守る決意をする。
奴等の企みを潰すため、俺は鬼になろう。仙台藩六十二万石を寸断──。酒井雅楽頭と伊達兵部とで交された密約が明らかになった。嫡子を藩主の座に据えることに血眼になる兵部だが、藩の取潰しを目論む幕府にとってはその駒に過ぎない。罠に気付いた原田甲斐はあえて兵部に取り入り、内部から非謀を破却。風前の灯となった伊達家の安泰のため、ひたすら忍従を装う。
お前の目論見は終わる。この命と引き替えだ! 切腹、闇討ち、毒殺。親しき友が血を流す様を「主家大切」一義のため原田甲斐はひたすら堪え忍ぶ。藩内の権力をほしいままにする伊達兵部は他の一門と激しく対立し、ついに上訴へと発展する。評定の場で最後の賭けに出る甲斐。すべては仙台藩安堵のために─。雄大な構想と斬新な歴史観の下に、原田甲斐の肖像を刻んだ歴史長編。
どんな激戦に臨んでもいつも生きて還ってくるために、臆病者とさえ誤解されながら、なおも生きつづける兵庫源八郎。その細心にして豪胆な戦いぶりに託して、“玉砕”と叫ばれていた太平洋戦争末期に作者の信ずるところを強く打ち出した。〈日本士道記〉シリーズの表題作。かけ遺った恋に衝撃を受けつつも、剣の道を貫く「藤次郎の恋」。ほかに「立春なみだ橋」「豪傑ばやり」など全12編。
宵節句の宴で七重は隣家の出三郎の袂に艶書を入れる。しかし、部屋住みでうだつがあがらないと思っている出三郎には、それが誰からのものかわからないまま、七重は他家へ嫁してゆく。廻り道をしてしか実らぬ恋を描く『艶書』。愛する男を立ち直らせるために、自ら愛着を断つ女心のかなしさを謳った『憎いあん畜生』。著者が娯楽小説として初めて世に問うた『だだら団兵衛』など全11編。