著者 : 高樹のぶ子
千年の時を経ても語り継がれる「小町」の名。実作と伝わる和歌を拠り所に謎多き生涯を小説に紡ぎ、この女性歌人を数多の小町伝説から放き放つ。「百夜通い」とははたしてー平安女流文学の原点がここにある。
接ぎ木の映像を見た女性は幼い頃の生々しい匂いが満ちた混乱の記憶を呼び起こす…「接ぎ木」、誰もいない音楽室から、数日前に亡くなった友だちが奏でるピアノの曲が聞こえて…「迷鳥」、平安時代の貴公子・在原業平は儚い日々を蛍になぞらえた。現代にもまた、そんな男がいる…「蛍」のほか、場所も時代も立場も様々な人間模様を、空想と現実が混ざり合う不思議な物語として描く珠玉の短編24編を収録。
美麗な容貌と色好みで知られる在原業平の一代記。千年前から読み継がれる歌物語の沃野に分け入り、小説に紡ぐことで、日本の美の源流が立ち現れた。これは文学史上の事件である!
一九三六年、博多の大学病院に勤める看護婦の久美子は、墜落して重傷を負ったフランス人飛行士と出会う。言葉が通じない二人の間に燃えあがる短くも激しい恋そして別れ。八十年後、久美子の血を引く二十六歳のあやめは二人を巡る不可解な物語を知る。恋愛小説の名手が、史実をもとに大胆に描いた恋愛ミステリ。
駆出しの作家だった頃の私が取り組み、完成できなかったノンフィクション。それは、ある忘れられた柔道家の型破りな半生を追ったものだった。だが、彼に寄り添う女、高校時代の恩師など、取材を進める毎にその実像はぼやけていく。一方、私と本人の間には、取材対象と取材者の垣根を越えた感情のさざ波が立ち始めー相対する二つの魂の闘争と交歓を描く。
緑の石の中に生きる最愛の妻(「翡翠」)、毎夏、夜空に託す姉妹の願い事(「笹まつり」)、二匹の秋の虫になって奏でる愛の歌(「虫時雨」)、正月の夜の突然の訪問者(「ほとほと」)ほか…巡る季節の中で紡がれる24のストーリー。
大学生だった息子の16年前の不可解な死の謎を追う母、息子の親友だった夫婦、不倫の恋に溺れる20歳の女性、そして、謎の朝鮮白磁を発見した若き大学講師と陶芸界の黒幕の老人。古都金沢を舞台に、大学生の謎の死と白磁の正体をめぐって驚くべき物語が展開する。恋愛小説とミステリが融合する、傑作エンタテインメント長篇。
新子はマイマイ(つむじ)をピンと立て、妹や友達と今日も元気に駆けまわる。大好きなおじいちゃんが作ってくれたハンモックは二人だけの秘密。昭和30年の山口県国衙を舞台に、戦争の傷を負いながらも懸命に生きる大人たち。変わりゆく時代の中で成長する日々を懐かしくも切なく描いた傑作。片渕須直監督アニメ映画『マイマイ新子と千年の魔法』原作小説。
1936年、九州帝国大学付属病院の看護婦・久美子は、墜落して重傷を負った飛行士アンドレ・ジャピーと出会う。言葉も通じないふたりの間に燃えあがる短くも激しい恋、そして別れ。80年後、久美子の血を引く26歳のあやめは、ふたりをめぐる不可解な物語を知る。残された古い時計を手掛かりに日本からフランスへ、恋の謎をたどるなかで、あやめが見つけた真実とはー。みずみずしくも濃密に描かれる恋の切なさ、闇に彩られた歴史のロマン。高樹のぶ子の新たな代表作!
昭和四十三年、京都国立近代美術館からロートレックの名画「マルセル」が忽然と消えた。亡父・謙吉がこの事件を執拗に追っていたと知った新聞社文化部の瀬川千晶は、四十余年前の謎に導かれるまま、神戸、京都、パリで、家族の驚くべき真実と出会う。実在の未解決事件をテーマにした、芳醇なる絵画ミステリ。
月光射し込む死の床で、逢わねばならぬ人がいる、成さねばならぬ事がある。愛して、憎んで、ほとばしる、思い舞い散る幻舞台ー作家生活33年、名手はついに和の美に手をそめた。筆冴え渡る傑作長編。死への道程を妖しく鋭く甘やかに描きだす、哀悼と鎮魂の物語。
夫のいる身ながら、わたしは知り合いの葬儀で出逢った妻子ある男からの強引とも言える告白に心惹かれる。その不器用なほど真っ直ぐな人柄に、ますます思いは募っていくが…。一緒に暮らす約束までした二人の、長い時を経ての逢瀬には、ずっと胸に秘めていた痛切な思いがあった。深く心に響く恋愛小説。
年下の、男の匂いのしないユヒラさんに誘われて、春まだ浅い夜、月光をかがり火がわりに夜釣りに出かけた。一度吸えば、もう死んでもいいと思うくらい美味しいというトモスイを探しにー。第三の性に寛容なタイ訪問を機に創作された川端康成文学賞受賞の表題作。バリの噎せ返る緑のなか、姉と弟の禁断の愛を描く「芳香日記」ほか、アジアのエロスと情熱を湛えた傑作短編十編。
ウィーン、ヴェネチア、サン・ドニ、ヴェローナ…。旅行者を魅了してやまない、数百年の歴史を誇るヨーロッパの古都市。だがそこはまた、星霜を重ねた魔物たちの棲み処でもあった。世界の裂け目から甘く人々を誘惑する魔物に囚われた旅人の運命は?夢と現実が交錯する、恐くていとおしい六つの幻想曲。
恵美子はナポリ滞在中に風変わりな男を紹介された。舞台美術家・ドニ鈴木。250年前のオペラ歌手の生れ変りと称するドニは、妖しく強烈な精気を放っていた。彼の妄言を受け流そうとするも、その魔力に翻弄されてしまう恵美子。やがて恵美子の恋人をも巻き込んだ三角関係は性も時空も超えた官能へと発展する。
トラウマ、秘密、恋に潜む「罪」は、時に人の心を狂わせてしまう。秘密を守るため、年老いた母親がひとり娘に託したある周到な計画。高級ブランドバッグの万引犯とそれを追う店員が結んだ女同士のある協約。父への復讐を企む女が、恋人に残した「真実」の手紙。罪深いからこそ生まれる妖しさを描く、恐ろしくも美しい六篇の物語。