出版社 : ハーパーコリンズ・ジャパン
仕事から一時離れて故郷に戻ったシシィは、宿命の人、ローガンと9年ぶりに顔をあわせた。彼の家は、シシィの家の隣に屋敷を構える富豪一族。かつて自分の弟と18歳のシシィが恋仲にあると疑ったローガンは、弟に身分違いの結婚をさせないためにシシィを誘惑し、身も心も奪ったあとであっさり捨てたのだった。当時の失意と悲しみがよみがえり、シシィは声すら出せないまま、あの日と変わらぬ魅力をたたえたローガンの瞳に欲望の影がよぎるのを見て、心のなかでつぶやいた。彼は知る由もないのねーあれから私が、彼の子を産み落としたことを。
ギリシアを旅行中、運悪くパスポートを盗まれてしまったクロエは、ホテルの計らいで用意されたヘリコプターでアテネへ向かった。安心したのもつかのま、暗闇のなか降ろされたのはアテネではなく、冷血な大富豪レオン・ステファニデスー彼女の夫の屋敷だった。別居中の妻を連れ戻すべく、すべて彼が仕組んだのだ!2年前、クロエはレオンとの子を宿し、幸せの絶頂にいた。ところが、そんな様子に嫉妬したレオンの異母妹が、身重のクロエを階段から突き落とし、お腹の子は不幸にも…。あのとき妻の訴えを信じず妹を守った夫が今、非情に告げた。「ぼくの子を産むんだ。わざと流産した子の代わりに」
両親亡きあと堕落した弟の世話に明け暮れてきたデボラは、ある日ヴィクターと名乗る謎めいた紳士に声をかけられた。「一曲踊っていただけませんか?僕の傷が怖くなければ」頬の傷さえ魅惑的な彼にダンスを申し込まれ、おずおずと応じたデボラはなじみのない高揚感を味わった。一曲だけーただ、それだけ。私に恋などできるはずはないのだから。ああ、でも、彼に触れられるだけでこんなに胸が高鳴るなんて…。心と体に残る傷をつかのま忘れて人並みの幸せを夢見た瞬間、デボラは残酷な運命に絡め取られた。彼が子爵だとはつゆ知らず、無垢な瞳をきらめかせたまま。
兄が幸福な結婚をして以来、エミリーの心はときおり孤独に沈んだ。運命の人はどこに…だめ、美人でもない私が、幸せを夢見たりしては。ところがある日、外出中に運悪く高所から下りられなくなった彼女は、野性味漂う美しき紳士の腕に抱きとめられ、思わずキスを許してしまう。ウィリアムは花嫁候補として舞踏会で紹介された地味なレディが、先日出会った甘やかな唇の娘だと気づき、絶句した。名も知らぬ男にキスを許す娘が、社交界で評判の模範的な淑女だと!がぜん興味を引かれたウィリアムは“あのこと”を秘密にする代わりに、しばし彼の下で働かないかとエミリーに持ちかけるー。
セレブが集うパーティで、派遣ウエイトレスのモリーが客から執拗ないやがらせを受けていたとき、見たこともないほどすてきな長身の男性が現れ、助けてくれた。スペインの銀行家にして公爵、レアンドロ・カレーラ・マルケスだ。モリーはたちまち心奪われ、その夜、彼の邸宅で純潔を捧げた。だが翌朝、信じがたい言葉に打ちのめされる。「愛人として君をぼくのそばに置いておきたい」初めて恋した男性にお金で買われた気がして、モリーは涙をこらえ、屋敷を飛びだした。まさか新しい命を授かるとは夢にも思わずー。
医師に脳腫瘍と診断され、余命4カ月と知ったウェンディ。両親もなくひとりぼっちの彼女は、家財をすべて売り払い、豪華客船で最後の旅に出た。その船上で出会ったのが、ローマ時代の彫刻のような品格を漂わす、たくましくハンサムな富豪ガース・リヴァーズだ。やがて二人の距離はじょじょに縮まっていくが、彼に惹かれれば惹かれるほど、ウェンディは切なくなるのだった。どれだけ恋い焦がれようと、彼とは決して結ばれないー私が生きられる時間は、あとわずかしか残されていないのだから。
2歳の息子をひとりで育てるサビーヌのもとを、かつての恋人で大富豪のギャビンが突然訪ねてきた。「なぜずっと隠していた、ぼくの息子を?」詰問され、サビーヌは動揺した。なぜ今になって現れたの?住む世界が違いすぎると別れを切り出したあの夜、彼の目にはなんの感情もよぎらなかったー怒りも、悲しみも。ただそっけなくうなずいただけで、彼は私を人生から切り捨てたのだ。ギャビンは官能的な唇を固く引き結び、怒りに燃える瞳をぎらつかせて言った。息子のDNA鑑定が済み次第、すぐに親権を要求すると。
レイチェルは逃げだしたかった。母の野心に押し切られ、もうすぐ老いた権力者との結婚式のベルが鳴らされるのだ。未練がましいとは知りながら、逡巡する彼女の前に現れたのは、魂まで覗きこむような、暗い目をした貴族オーランドだった。「君には勇気が欠けている」と断言されて、その言葉に背中を押されるようにレイチェルは式場から抜けだし、車をひた走らせた。オーランドの屋敷へ、彼のもとへとー月光射す、闇のなかでオーランドは静かに抱き締めてくれたが、やがてレイチェルは、彼が失明しかけているのを知る。RNAロマンス小説賞受賞作。
パーティの間じゅう、ナターシャは部屋の隅で微笑んでいた。今日、突然フィアンセから婚約解消を言い渡された彼女には、悲しみにくれる心の置き場がわからないのだ。そんなナターシャを、熱を孕む瞳で見つめるひとりの男がいた。敏腕経営者でプレイボーイと名高い、ジョー・ファラルだ。わけもわからずナターシャが、震えて吐息をのむと、ジョーは彼女の手を優しく取り、そっと外に連れだしーいますぐ消えてなくなりたいナターシャは身をゆだねたのだ。一夜の夢に。その代償に、妊娠してしまうとは思いもせずに。
出逢ったばかりなのに、どうしてこんなに目が離せないのかしら。アニーは、唇を噛みしめ、こらえきれず胸をかき抱いた。不良少年に絡まれているところを助けてくれたとはいえ、ゲイブという名以外、素性もわからぬ謎の放浪者だというのに。その日以来、彼もまた片時すらアニーから離れようとしないのだ。誰にも打ち明けていないが、アニーは不治の病を患っていた。人知れず命の幕を閉じるつもりでいたが、ある日気づいてしまう。彼は私の魂の片割れだと。人生が終わる間際に出逢うなんてー運命の皮肉さに、胸の奥の、さらに奥深いところで心が痛んだ。
住み込みの子守りに応募したところ、ファビアンヌは地味で真面目そうだからという理由で採用された。雇い主は一流企業を率いる、精悍な美男子ヴェレ・トラダイン。亡き弟の妻の子を引き取っており、子守りを探していたのだ。ファビアンヌは胸をときめかせるが、男性といるところを見られ、それ以来、ヴェレに蔑まれるようになった。密かに落ち込むファビアンヌは、やがて気がついてしまう。冷たいヴェレが、死んだ弟の妻にだけはにこやかだ。彼は義理の妹を愛しているのではないかと…。
ジェニファーは、もう二度と誰も愛したくないと思っていた。婚約者を飛行機事故で喪い、生きる意味を失ってからはー打ちひしがれる彼女は仕事を辞め、奨められるままに、ある老婦人の付き添い人をすることになった。ところが彼女を見るなり、雇い主のハンターは声を荒らげたのだ。母と話があうように、年配の女性を希望したのに、と。追い打ちをかけるような、その冷たい物言いに心底怯えてしまうジェニファーだったが、彼が幼なじみには優しくするのを見て、なぜか胸の中心がずきりと疼くのを感じた。
「いいえ!先生とベッドを共にしたことなど一度もありません」恩師であるミゲルの離婚調停の証人台に立ったニッキーは、彼との関係を否定しつつも、いまにも胸が張り裂けそうだった。本当にミゲルの恋人だったら、どんなに嬉しかっただろう。いつか彼に抱かれる日を夢見てきたが、妹以上にはなれなかった。ついに離婚は成立し、ミゲルは独りになったものの、つきまとう痛みに耐えきれず、ニッキーは彼のもとを去った。すべてを忘れ、新たな人生を歩むためにーところがある日、突然ミゲルが彼女の前に姿を現した。
素性の知れない犯罪者ビッグ・ホワイティを炙り出すため潜入捜査中の特別捜査官ウィルは、警官の家を狙った強盗事件に出くわす。犯人は警官夫婦の家に押し入るなり、最初から命を狙っていたかのように発砲した。夫は重体。刑事の妻は反撃のすえ強盗犯一人を殺害する。襲われたのは、ウィルが取り調べたことのある曰くつきの女刑事だったー。さらに彼女と同じチームの警官が襲撃され…。
1889年冬。とある名家のマダムと知り合ったホームズとワトスンは、一族の夕食会に招かれた。だが最後の料理皿の銀蓋を開けると、そこに人間の切断頭部が…。事件調査のため、一族が暮らすスコットランドの古城にすぐさま向かった二人。その城は幽霊が出ると噂されていて、何年も前から不審死が相次いでいるようでー。すべての謎はやがて予想外の結末へ!本格パスティーシュ第2弾。
ジャンル
米国を代表する名画家、エドワード・ホッパー(1882-1967)。作家ローレンス・ブロックは、ホッパーの作品は「絵の中に物語があること、その物語は語られるのを待っていること」を強く示唆していると語り、ホッパーの絵から物語を紡ぐこの短編集を考えついた。彼の呼びかけに集まったのは、スティーヴン・キング、ジェフリー・ディーヴァー、マイクル・コナリー、リー・チャイルド…といった錚々たる顔ぶれ。各々の個性を遺憾なく発揮した華麗なる文豪ギャラリーが、ここに幕を開けたー。2017年アンソニー賞Anthology部門最終候補。2017年MWA賞受賞(L・ブロック作『オートマットの秋』)。
シェリーの人生でいちばん幸運だったのは、初恋相手が人生の伴侶になったことだ。ハイスクールでの出会いから何年たっても、シェリーは少女のような気持ちで夫に恋をしつづけ、ジャックも情熱的な愛で応えてくれる。ここ数年、FBIの潜入捜査官である彼とは離ればなれの日々だったものの、いま捜査中の事件が解決すれば、またふたり一緒に暮らせるのだ…。しかし、運命は残酷にも、ジャックが捜査中に凶弾に倒れ、行方不明になったという知らせを届ける。夫婦の絆を試すかのように、涙にくれる彼女をさらなる試練が襲いー。
花売りの仕事を失い、ロンドンのとある屋敷でメイドとして働き始めたエマ。屋敷の旦那様は深いブルーの瞳が印象的な見目麗しい紳士で、残念ながら接点はなかったものの、エマは彼を盗み見るのが大好きだった。そんなある日の午後、エマが書斎を掃除していると旦那様が入ってきた。彼はエマにカーテンを閉めさせると、下着を脱いで脚を開くようにといきなり命じ…。アデライデ・コール『旦那様、お気に召すまま』ほか、ミーガン・ハートが描く危険なオフィスラブ『オフィスレディの別の顔』など刺激的な全5作収録のアンソロジー。
辣腕の投資家ギデオン・ケージが、弟の経営する小さな会社を乗っ取ろうとしていると知り、ハナは休暇中の彼のもとを訪ねた。巨万の富を築きあげたギデオンにとって、今回の買収などただの退屈しのぎに違いない。たくましく自信に溢れたギデオンは、カードの勝負で勝てば手を引いてほしいという彼女の申し出をなぜかあっさりと受け入れ、ハナは奇跡的に勝利する。高揚したハナは気づかなかった。非情な実業家に改心を説くハナに、ギデオンがそそられていることに。そして彼の情熱に煙る瞳で見つめられると、抗えないことに…。