小説むすび | 出版社 : 国書刊行会

出版社 : 国書刊行会

五つの箱の死五つの箱の死

深夜一時、ジョン・サンダース医師は研究室を閉めた。今週中に、ある毒殺事件のための報告書を提出しなければならず、遅くまで顕微鏡を覗いていたのだ。頭をすっきりさせて帰ろうと、小雨の降りはじめた道を歩いていたサンダースは、十八世紀風の赤煉瓦造りの家のすぐ外に立つ街灯のそばに一人の若い女性がたたずみ、自分のことを見ているのに気づいた。ガス灯に照らされ、ただならぬ雰囲気を漂わせた女性は、サンダースを呼び止め、この建物の窓に明かりが灯った部屋に一緒に行ってほしいと懇願する。この女性に請われるまま、建物に入り、部屋に足を踏み入れたサンダースが目にしたのは、細長い食卓の周りを物いわぬまま囲み、蝋人形か剥製のように座った四人の人間であった。いずれも麻酔性毒物を飲んでいる症状が見られ、そのうちの三人にはまだ息はあったが、この部屋の住人であるフェリックス・ヘイは細身の刃で背中から刺されてすでに事切れていた。そして奇妙なことに、息のある三人のポケットやハンドバッグには、四つの時計、目覚まし時計のベルの仕掛け、凸レンズ、生石灰と燐の瓶などの品々が入っていた。事件の捜査を開始したロンドン警視庁のハンフリー・マスターズ首席警部は、奇妙な事件の解明のため、ヘンリー・メリヴェール卿を呼び寄せる。

吸血鬼ヴァーニー 或いは血の饗宴(第1巻)吸血鬼ヴァーニー 或いは血の饗宴(第1巻)

雹と雨と雷鳴の狂乱とも形容すべきすさまじい嵐の夜、没落した名家バナーワース家の館の一室で眠るフローラは、ふと得体の知れない何者かが窓を破って部屋に侵入しようとしていることに気づく。恐怖で凍り付き、四肢を硬直させ、「助けて」とつぶやくことしかできないフローラが目にしたのは、血の気のない蒼白な顔、磨かれたぶりきのような目、深く裂けた唇、そしてぞっとするような瞳にも増して、なにより目を引く、白くぎらぎらした鋭い牙のような、猛獣のそれを思わせる突き出た醜悪な歯を持つおぞましい生き物であった。部屋に侵入した怪物は、不気味な咆哮をあげながらフローラに近づき、その長い髪を手にからめとって体をベッドに押しつけると、鋭い金切り声を上げるフローラの喉笛に牙のような歯を突き立てた。ほとばしる血潮が滾々とあふれ、室内にはそれを吸う異様な音が響いた…ヴィクトリア朝時代のイギリスで、週刊の安価な媒体に連載された“ペニー・ドレッドフル”の代表的な作品であり、以後のあらゆる吸血鬼作品や吸血鬼造型の原点ともなったゴシック・ホラー小説の伝説的作品、世紀を超えて、ついに刊行開始!

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