出版社 : 松籟社
感傷にも甘さにも寄りかからない凛とした物語世界。アルゼンチン辺境で布教の旅を続ける一人の牧師が、故障した車の修理のために、とある整備工場にたどりつく。牧師、彼が連れている娘、整備工の男、そして男とともに暮らす少年の4人は、車が直るまでの短い時間を、こうして偶然ともにすることになるがー。ささやかな出来事のつらなりを乾いた筆致で追いながら、それぞれが誰知らず抱え込んだ人生の痛みを静かな声で描き出す、注目作家セルバ・アルマダの世界的話題作。
自分の人生を生きるのだ。自分が生きたいように、生きたいだけ、ずっと。重篤な病に憑りつかれ、生死の境をさまよう主人公。自身と、そして家族のもとに現れた「死」を前にして、彼は何を見出したのか。ベルンハルト自伝五部作の第三作、待望の邦訳刊行。
作家自身が見つめ、経験した、ナチスのチェコ侵略、「プラハの春」の挫折、そして「ビロード革命」。歴史の大きな出来事についての語りはしかし奔放に、自在に逸脱し、メランコリーとグロテスクとユーモアがまじりあう中に、シュールで鮮烈なイメージが立ち上がってくるー。フラバル後期の傑作短編集。
ルーマニア語の世界に飛び込んだ著者。たちまちこの情感豊かな言語と、それが紡ぎだす詩や小説の虜になる。長年にわたって訳してきた数々の作品ーミルチャ・エリアーデのほとんどの小説をはじめ、リビウ・レブリャーヌ、ミルチャ・カルタレスクからルーマニアの民話やバラード、SFにいたるまでーに付したあとがき・解説・解題をまとめた、著者半生のルーマニア愛の記録。
チェコスロヴァキアの民主化運動を牽引し、のちに大統領に就任したヴァーツラフ・ハヴェル。しかし彼の本領は、「言葉の力」を駆使した戯曲の執筆にあった。官僚組織に人工言語「プティデペ」が導入される顛末を描いた『通達』、ビール工場を舞台に上司が部下に奇妙な取引をもちかける『謁見』の二編を収め、「力なき者たちの力」を考究したこの特異な作家の、不条理かつユーモラスな作品世界へ誘う戯曲集。
20世紀を代表する文学作品『ユリシーズ』。ジェイムズ・ジョイスがこの傑作を世に送り出してからちょうど百年目にあたる2022年、ジョイス研究の枠を越えて気鋭の論者が結集した。多様な視点から、『ユリシーズ』の「百年目にふさわしい読み」を提示する論考群。
ポーランドの南西部、国境地帯にあるとされる架空の村プラヴィエク。そこに暮らす人々の、ささやかでありつつかけがえのない日常が、ポーランドの20世紀を映しだすとともに、全世界の摂理を、宇宙的神秘をもかいま見させるー「プラヴィエクは宇宙の中心にある。」2018年ノーベル文学賞受賞作家トカルチュクの名を一躍、国際的なものにし、1989年以後に書かれた中東欧文学の最重要作品と評される傑作、待望の邦訳刊行。
『嵐が丘』の読者は数多の謎に遭遇する。謎を解くためにテクストから証拠を拾い上げてゆくと、また新たな謎が出現し、これまで見えなかった作品の一断面が、鮮やかに浮かび上がってくる…好評を博した旧版『「嵐が丘」の謎を解く』(創元社、2001)に3つの新章を加え、全面的に改稿した増補決定版。
第二次大戦下、親元から疎開させられた6歳の男の子が、東欧の僻地をさまよう。ユダヤ人あるいはジプシーと見なされた少年が、その身で受け、またその目で見た、苛酷な暴力、非情な虐待、グロテスクな性的倒錯の数々-。
シュティフター作品を貫く主題、「森」。コレクション第4巻は、生命の力がみなぎる森の姿と人々の暮らしとの関わりが描かれた作品、いわば「森の鼓動」が聞き取れる作品を集めた。森の中で「奇蹟」に遭遇する一人の男の心的過程を描いた表題作『書き込みのある樅の木』のほか、『高い森』、『最後の一ペニヒ』、『クリスマス』を収録。
あまりにも純粋な、あまりにも頑な心がうみだした悲劇。「森ゆく人」と呼ばれる老人ゲオルク。彼には、取り返しのつかない過ちを犯した過去があった…あたかも償いの道を歩むかのように、ボヘミアの静かな森をさまよい続けるゲオルク。その傷ついた心を、森は優しく受けとめ、慰めてくれる…。
ナチズムとスターリニズムの両方を経験し、過酷な生を生きざるをえないチェコ庶民。その一人、故紙処理係のハニチャは、毎日運びこまれてくる故紙を潰しながら、時折見つかる美しい本を救い出し、そこに書かれた美しい文章を読むことを生きがいとしていたが…カフカ的不条理に満ちた日々を送りながらも、その生活の中に一瞬の奇跡を見出そうとする主人公の姿を、メランコリックに、かつ滑稽に描き出す、フラバルの傑作。
「ウンラート(汚物)教授」のあだ名で呼ばれる初老の教師ラート。ある日、生徒を追って夜の街に出た彼は、大衆酒場の若き歌姫に出会う。彼女とつきあううち、教壇の権威としての立場を忘れた彼は、社会憎悪の裏返しである破滅的愛を、彼女一人に注ぐようになっていく…。マレーネ・ディートリヒ主演映画『嘆きの天使』原作。
比類ない自然描写の美しさで知られる19世紀オーストリアの作家シュティフター、その代表的短篇集『石さまざま』全訳版(上下2巻)をここに。上巻では、作家自身の芸術的信仰告白ともいうべき「序文」、幼いころの鉱石蒐集の想い出が反映している「はじめに」、ボヘミアの森の風物を背景に、故郷での想い出を紡いだ「花崗岩」、不毛の地に暮らす貧しい司祭の、隠れた美しさを描く「石灰石」、姦通とそれへの呪詛という人間のまがまがしい情念に巻きこまれた子どもが、愛ある女性によって救われる「電気石」を収録。
昭和40年代、高度成長期日本。3種の神器と謳われた欲望の象徴・自動車をめぐって、各メーカーは熾烈な争いを繰り広げる。ライバル会社を欺き、出し抜き、機密を盗み出す“産業スパイ”の世界をあますところなく活写、1962年に発表されるや一躍ベストセラーとなり、「企業小説」という新ジャンルを開拓した傑作。同年、田宮二郎主演で映画化されている。
愛する者の“死”をめぐる喪の記憶。「バテスからの帰還」をはじめ「子供」、「罪なき女」、「コーベス」など、後期短篇小説のコレクション。ハインリヒ・マン短篇集全3巻、完結。