1991年発売
北国の冷たい夏に離農をよぎなくされ、二人の子供を置いて、妻に逃げられた男。男は焼酎を片手に出刃を磨ぐ…。過酷な自然を背景に、力強い文体で人間の内面を抉る、鮮烈なデビュー作「出刃」ほか、力作3篇を収録。
私は両耳をつかまれて、高々と持ち上げられた可哀想なうさぎー。理不尽ないじめに苦しむ少女に兆す暗い思いを豊かな筆緻で描いた表題作のほか、子守歌に恐怖と孤独を覚える少女を見つめた佳篇「こぎつねこん」を収録。平林たい子賞受賞の話題作。
宮崎発東京行きの寝台特急「富士」の個室から女性の生首が発見された。そして、死体の一部が静岡の安倍川と東京の隅田川に浮かんだ。丸の内署の下川刑事は被害者と同じ車輌に乗っていたと思われる意外な人物を捜し出すが、死亡推定時列車は岡山ー名古屋間をノンストップ走行中で、下車することは不可能であった。消えた犯人の影を追って下川刑事は一人九州へと旅立つが…。時間のトリックを衝く会心の鉄道ミステリー。
かつて、これほど凄惨な殺され方をした少女がいただろうか。-毒殺、絞殺、撲殺、刺殺、溺殺、同時に5通りの方法で殺されたのだ。その少女は『シンデレラ計画』というタレント誕生コンテストで1位になり、アイドルの座を約束されていた。精神科医の名探偵・氷室想介と警視庁捜査1課・田丸警部は、前代未聞の五重殺の謎に挑む。だが、あざ笑うように、『シンデレラ計画』の関係者が毒殺、絞殺、撲殺…と順番に少女が殺されたのと同じ方法で1人ずつ殺害されていく…。意表をつく大トリックと戦慄のサスペンス。圧倒的評判の大型新鋭が書き下ろした新感覚の本格推理傑作第2弾。
愛欲を貪り尽くして飽くことを知らぬ女。運命に抗いつつ哀しみに溺れていく女。肉体を武器に世の中をわたっていく女。男を騙す女、そして騙される女。これら百花繚乱の芳香豊かな華々しき女性たちの人生模様を、自在の筆をもって、あますところなく描ききる。元祖超流行作家・梶山季之のきわめつき傑作小説集、登場。
虫売りを生活の足しにしている浪人の妻・紀乃は、いつしか我が身をもひさぐ運命に(表題作)。-江戸の市井に生きる人々が織りなす人間模様を、世話物の名手が哀感・情感漂う筆致でしみじみと描いた珠玉小説集。
強大な大内、尼子、二氏の間に挟まれた弱小な毛利家当主となった二十七歳の元就。冷酷な策謀を弄して容赦なく敵を屠り、『三本の矢』のごとく三人の子らも協力して、中国地方の大半を制覇。長州藩の基礎を築く。
俺、ブリショー。コランタンの相棒さ。奴にはいつも助けられている。今度の事件だって-発端は奴の鼻だった。薔薇孤児院てとこはどうもクサイ、何かある、とすかさず嗅ぎつけてな、早速孤児院の美人先生と仲よくなっちゃってさ(いいねえ、いつもながら)、色々探りを入れると、これがひでえ所だったんだ。かわいそうな女の子たちを娼婦に育て上げ、売春窟にしてたんだよ、院長のばあさんが。「わたしを駄目にした男たちに復讐してやる。男を手玉にとって、男の血を吸って生きてやる」だと。狂ってるぜ。乱痴気パーティーの現場に踏み込もうとしたんだが、例の美人教師は人質になるし、実は俺も捕まっちまってな(ヤバかったよ)、最後の最後までハラハラしたぜ。
もう理想の男性が現れないからボーイフレンドの求めに応じてしまおうかしら。秘書のマギーは、インターコムが入ったままとも知らず、同僚と話していた。すると、社長室から、マギーを呼ぶ声がする。あわててかけつけると、社長のジェームズが目を輝かせている。「きみの言っていることは全部聞いたよ。それなら、ぼくが恋の手ほどきをしてあげよう」社長が恋人の代わりなんて、ジェームズの言葉に、マギーは声も出なかった。
コネチカットの田舎町ファーミントン。ロックンローラーのマロリーは、皆の期待するセクシーシンボルの役に嫌気がさし、静養のため、この町に引きこもったのだった。ある日、スーパーで買い物をしているとき、ふとしたことから、医者デビッドと知り合いになった。そして、彼に、自分のいる世界にはない誠実さを感じ、マロリーは、強くひかれていった。しかし、デビッドが知っているのは素顔のマロリー。マロリーは、彼に真実を打ち明けることができなかった。ところが、デビッドは、レコード屋で、マロリーのレコードを見かけてしまった。マロリーの正体を知り、デビッドは…。
フォード家は、エリザベス女王の治世に建てられた、広大な屋敷で、代々、暮らしていた。しかし、ジェレミーとマリオタの父親である。フォードカム卿は、称号と領地を継承した時、共に巨額の負債も抱えこみ、貧しさにあえいでいた。ある日、ジェレミーは、貧困に焦燥感を募らせ、妹のマリオタに、窮状の打開策を持ちかけた。それは、なんと、強盗をはたらくということだった。マリオタは、呆れ果て、とり合おうとしなかった。が、ジェレミーは一向にあきらめず、ついに、マリオタは、計画に加担することになった-。ワーセスター街道で、2人が息をひそめていると、向こうから、パッケンハム伯爵の馬車が来た。
財界大物で精神文化活動に熱心な財前矢一郎のスキャンダルを追う葛城乱は、彼の手許に、古代マヤ文化の水晶髑髏があることを掴んだ。本来は九頭流占い師蛇巫女の使う道具で、何者かに盗まれた物なのだ。それが、なぜ財前コレクションにあるのか?事件は当初、小さなものに思えたが、それが狂気の地獄への第一歩となった。真相を追う乱をつけ狙う男たちと、甘美な肉体を武器に罠を仕掛ける美女たち。水晶髑髏盗難と乱襲撃、そして財前との関係は?やがて事件の背景に蹲る巨大な謎と恐怖が目覚め始めた…。不死身のスーパー・ヒーロー葛城乱の活躍を描く〈アーバン・ユニコーンシリーズ〉白熱の開幕。
時は19世紀末。所は花の都パリで、小説家ユベール先生の書きかけ原稿から、突如として作中人物イカロスが逃げ出した。イカロスは同業の小説家に盗まれたにちがいない!ユベールは大追跡を開始する。ところがその頃、他の小説家の作中人物たちも作者の定めた運命を嫌い、いっせいに脱走をはかっていたのである…。新しい小説形式に挑み続けたクノーによるファンタジー。
中国帰りの資産家アーサーは、母親の家でお針子として働いている、か細い身体つきでひどく怯えた顔をした若き女性リトル・ドリットに会った。興味を持ったアーサーは、ある夜尾行し、マーシャルシー監獄へ入って行く彼女の姿を見た…。19世紀、華やかなロンドンの裏にひそむ悲惨な生活、社会の矛盾や不正のしわ寄せを背負いこまされる貧しい者、弱い者たちの姿を鋭い観察眼で描いた『リトル・ドリット』を全4冊で刊行する。
不倫、親子の断絶、非業の死、そして《家族》の崩壊-。祭りのあとのような、やるせなさと倦怠感に毒されたこの時代、ひとは何をよりどころとして生きていけばよいのか。60年代の青春がたどりついた《家族》と《愛》の現在形。
熱狂的なサルサのリズムに身を任かせようと、私は恋人とマディスン・スクエアに出かけた。嫌な予感がしはじめたのは、いとこのアイクと出会ってから。ダイヤ売買を生業とする彼の様子は、ただごとではなかった。案の定、一緒にいた男は銃殺され、アイクも失走。その妻までが惨殺されるに及んで、私は否応なく事件の渦中へ…。生粋のニューヨーカーが贈る本格ハードボイルド第二弾。
ブロードウェイ公演を控えている芝居『開廷期間』。その主演女優の臨時代役を務めることになったジョスリンだが、当の主役ハリエットは演劇界の鼻つまみ。案の定、彼女は常に不協和音を奏で、ついには楽屋で殺害されるに至った。第一容疑者と目されたジョスリンは、持ちまえの直観力で事件の真相に迫ろうとするが…。現代アメリカの演劇シーンを舞台に描く傑作シリーズ第一弾。