2002年発売
気鋭の長編サスペンス!札幌を離れて十七年経った今、再びここで暮らすことを決意して戻ってきた。雪が深い。この一帯は原生林に近い混交林が続いている。雪を冠した木立の向こうに、楡の巨木が見えている。あるべきものがそこにある。たったそれだけのことが、実に大きな慰めに、あるいは励ましになる。記憶が嘘をついたのか。冬の大地に埋めたはずの事件。赤いコートの女が、封印された過去へ男を誘う。
筆を執ると、あの女が立ち現れ、語り始める。本草学者、戯作者、発明家として一世を風靡しながら、取るに足らぬ男を斬った平賀源内。いま胸に去来するのは、ありあまる才覚や機会をことごとく食いつぶした悔恨とあの女と睦み合った日々、そして木枯らしの凍てつくあの一夜のことだった…。男と女のエゴと情愛を描き尽くした傑作長篇。
超優良企業の総合職としてバリバリだった中野貴奈子は上司のひと言に魂を抜かれ、辞表を提出。プーの生活から再就職したのは鳶職人の集合体、その名も「日本晴れ」だった。俗世間からずれまくった異能の職人達が挑んだのは難易度特Aクラスの巨大な現代彫刻の取り付けと会社のユートピアの創造だった…。ひねりのきいた笑いとでっかい感動が炸裂!ひたすら面白い娯楽小説の新潮流。
仕事にでかける千吉は、髭剃りあとに化粧水のオイデルミンをつける。きつく褌を巻くと、最後の仕上げに、女の腰巻をつける。客の前で気をやる時には、いつも幻の唄が聞こえた…。貧しくとも肩を寄せ合って生きる男や女、その日々の生活に忍び寄る、淫靡な幻想に彩られた伝承の恐怖!ああ、幻の唄が聞こえる。あの魔羅節だ。懐かしくもおぞましい、あの拍子だ…。哀しい血の匂いがしたたる傑作作品集。
高台に建つマンションで共同生活を始めた明日香と真弓。その新しい部屋で奇妙な出来事が次々に起こる。バスルームに残された得体の知れぬ毛髪、新聞受けからこぼれ落ちる蛆虫…。そして真弓が浴槽で謎の死を遂げる。彼女の恋人も失踪し、残された手紙には「僕たちは許されるのか」という走り書きが。やがてマンションの隣人たちは不気味な行動を起こし、暗く湿ったボイラー室の扉が開かれる…。第2回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。
江戸深川の仕出し料理屋・立花屋で事件が起きた。下働きの少年・元吉の過去と、何か関係があるらしい。元吉は青物商の伜で、付け火により親兄弟をすべて失い、与七のもとで働いていた。神田多町の青物市場で、探していた人物を見かけた元吉、それを知った与七は…。人情の機微をテーマに様々な作品をものしてきた内海隆一郎が、料理を彩りに添えつつ描き出した、初の長編時代ミステリー。
ふたりの出会いはマラソン大会で走っている最中だった。小杉純也はプロを目指す高校球児。坂本ららは走ることと笑うことが大好きな高校生。ららは、運動会から始まってロードレース、駅伝、フルマラソンと次々に記録を塗り変えてしまう。オリンピックすら視野に入って来た。純也もスカウトの目にとまって、プロ野球の選手としてデビューした。涼風のようなふたりの恋。青春長編ラブストーリー。
その日、郁子が小学校から帰ると、お姉ちゃんが死んでいた。そして通夜の晩、死んだはずの姉から告げられたショッキングな事実。不幸な謎の死をとげた姉・裕美子と自分の出生の真相を解き明かそうとするうちに、郁子のまわりでは次々と人が死んでいき…。「人恋坂」に雨の降るとき、なにかが起こるー運命の怨念がこだまする坂道を舞台に、人間の弱さと哀しみを浮き彫りにした、現代怪談噺の最高傑作。
人口1200万。首都東京には人が集まり、それと共に様々な霊的事件が起こる。左右田益荒男は、後輩の赤坂仁奈と共に霊的事件の清掃に当たる。しかしそのためには、事件に巻き込まれた女性の霊的浄化が必要だった。その方法は18禁!それにより浄化された霊力-「エクスタシー・エクトプラズム」、通称エクエクを取り出し、その力を借りて事件の本質となっている霊障を払うのだ。だが、様々な妨害者が現れて、「清掃」は、人智を超えた戦いとなっていく-。
弁之助は心の中で大蜘蛛に叫んだ。その願いが聞き届けられた時、最愛の女が骸となるとも知らずに…!十三歳の少年・宮本弁之助が疾走する。初めて恋仲となった少女・綾のために、攫われた弟を救うために、そして己の呪われた宿命を知るために!!壮大なる剣豪伝奇ロマン、怒涛の開幕。
司法浪人・倉橋謙次郎の叔父・倉橋浩二が、津軽の猿賀神社で、他殺死体となって発見された。そして、その傍らには、地元の郷土史家・柳原卯平衛の死体も!浩二は、学界を二分する邪馬台国論争で九州説を唱える権威。事件の背後に見え隠れする古文書「田道文書」が太陽信仰派と雨雲信仰派による古代日本の宗教戦争を明らかにする!歴史小説作家・芦川玲子、玲子のかつての愛人で邪馬台国畿内説の泰斗・湊幸彦と、その弟子・金井武-。謙次郎は、錯綜する人間関係の糸を解きほぐしていく。そして、叔父を襲った悲劇の真相を探るため、九州・吉野ケ里に飛んだ謙次郎が見たものは。
途中、何事か起こって中道で斃れるようなことがあっても、もとより男子として本懐である-。第一次世界大戦後の慢性的不況を脱するために、首相・浜口雄幸と蔵相・井上準之助は金解禁を断行した。性格も境遇も正反対の二人の男を軸に人間の生きがいとは何かを静かに問いかける、城山文学の真骨頂。歴史の教訓によって現代を照らし出す新装版。