2006年11月発売
東北の山中、ダムによって外界と孤立した「秘境」で生き続けてきたひとりの孤独な少女と、彼女を現代社会に連れ出そうとする新聞記者との魂の交流。自然と文明の対立を超え、21世紀の私たちが真に幸福に生きられる道を問いかける。
社会科教師のおでこのテカリ占いをしては大受けしていた陽気でマシンガンな中学時代からクールで一目置かれる弓道部員の高校時代を経て、大学生になった私がしたことは、恋をすることだった。遠くの的を見抜く力のおかげで視力が2.0以上になっていた私はその年の秋、キャンバスで遙か遠くから歩いてくる同じ学年の男の子に「今度は的じゃなくて、別のものを射抜くことにしたんです。例えば男子とか」と笑いかけていた。怖いくらい、好きになる。それでもいいと思った。最強の恋愛小説。
生と死を凝視しつづけた作家が、兄の死を題材に自らの死生観を凝縮し、死の直前まで推敲をつづけた短篇「死顔」。死の静謐を期し、延命措置への違和が表明されている。著者の最期とも符合する表題作など、全五篇の遺作小説集。
ゾシマの言葉にしたがって、アリョーシャは父の家に出かける。父と長男ミーチャとの確執は、激しさを増していくようだ。イリューシャとの出会い、スネギリョフ大尉の家で目にしたものなど、アリョーシャの心はさまざまに揺れ動き、イワンの「大審問官」で究極の衝撃を受ける。
冴えない日々を送る高校生、大橋賢三。山口美甘子に思いを寄せるも、彼女は学校を中退し、着実に女優への道を歩き始めていた。そんな美甘子に追いつこうと友人のカワボン、タクオとバンドを結成したが、美甘子は女優として鬼才を発揮しながら共演の俳優とのスキャンダルや秘められた恋を楽しんでいた…煩悩ばかりで健気な賢三と自由奔放な美甘子の青春は交錯するのか?青春大河巨編、ついに完結。
ビアスの失踪という米文学史上最大のミステリを題材に不気味なファンタジーを創造、エドガー賞に輝いた「壜の中の手記」、無人島で発見された奇怪な白骨に秘められた哀しくも恐ろしい愛の物語「豚の島の女王」など途方もない奇想とねじれたユーモアに満ちた語り/騙りの天才カーシュの異色短篇集。「凍れる美女」「壁のない部屋で」の新訳2篇、「狂える花」ロング・ヴァージョンを収録した新編集版。
幼い頃に理不尽な災害で両親を失って以来、家族で信仰していた神に不信感を抱くようになった和久優歌。やがてフリーライターとして活動を始めた彼女はUFOカルトへ潜入取材中、空からボルトの雨が降るという超常現象に遭遇する。しかしこれは、「神」の意図をめぐる世界的混乱の序章に過ぎなかったー。UFO、ボルターガイスト、超能力など超常現象の持つ意味を大胆に検証、圧倒的情報量を誇る一大エンタテインメント。
「サールの悪魔」この謎めいた言葉を残し、優歌の兄・良輔が失踪した。彼はコンピュータ上で人工生命進化を研究するうち、「神」の実在に理論的に到達。さらにその意図に気づき、恐怖に駆られたのだ。折しも世界各地では、もはや科学では説明できない現象が頻発。良輔の行方を追ううち、優歌もまた「神」の正体に戦慄するー。膨大な量の超常現象を子細に検討、科学的・合理的に存在しうる「神」の姿を描き出した本格長編SF小説。
「零崎一賊」-それは“殺し名”の第三位に列せられる殺人鬼の一族。二つの通り名を持ち、釘バット“愚神礼賛”ことシームレスバイアスの使い手、零崎軋識。次から次へと現れる“殺し名”の精鋭たち。そしてその死闘の行く末にあるものは一体!?新青春エンタの最前線がここにある。
天智天皇、天武天皇の時代を通じ、物部連麻呂は最下級役人だった。壬申の乱では大友皇子の側に立ったこともあり出世は望めなかった。しかし天武の没後、石上の氏族名に変わり、持統天皇、元明天皇の時代には徐々に位は上がっていった。和銅元年(西暦七〇八年)には、臣下の最高位である正二位左大臣にまで上りつめた。なぜ麻呂はそこまで出世できたのか。闇の部分に迫る古代史長編小説。著者絶筆。
「あの文豪にこんな探偵小説が!」と、読者を驚嘆させるアンソロジー。“プロパビリティーの犯罪”を初めて扱った谷崎。故殺か、事故かを追及した鴎外、志賀。静かに迫りくる恐怖を描いた三島…。「謎」は殺人事件にとどまらず、人の心の奥底にこそ存在する、と、信じる巨匠たちの生み出した探偵小説の傑作の数々。
瀬野、正夫、ヨダカとぼく。大学寮の東十五室はぼくたち4人の居場所だった。寮が取り壊された今、大切な場所を失ったぼくたちに正夫の歌う音のはずれたビートルズが気づかせてくれたのはー。
警視庁組織犯罪対策部第四課の刑事・秋川恭介は、旧友の不審死をきっかけに権力の闇に踏み込んでいく。見え隠れする検察の影。事件をきっかけに失踪した友人の妻と、不可解な行動で捜査を混乱させる謎の青年。あらゆる捜査妨害を乗り越えて、秋川は友が語りえなかった真実に迫れるのか!?哀切なラストが胸を打つ、警察小説の最新傑作。
「パパが、ママが、帰ってこないの」警視庁捜査一課、岡部警部の部下・坂口を五歳の姪が訪ねて訴えた。姉夫婦に何が!?不吉な予感に襲われる坂口に、殺された義兄が福島県郡山近郊の石川町で見つかったという悲報が届く。現地に飛んだ坂口は、古典文学の研究者・吉川弘一から、数日前に義兄を佐賀県有明町で目撃したという証言を得る。二つの町には王朝の歌人和泉式部の史蹟があり、義兄は失踪直前に「イズミ」という言葉を残していた。事件の背景に和泉式部が関係しているのか!?やがて姉も他殺体で発見され、両親を喪った幼い姪のため、若き刑事は事件解決に乗り出した。