2006年11月発売
私がだれでありどこからきたのか、六十年以上の時が流れて私にはもう調べるすべもない。わかっているのは私は昭和二十年八月九日十一時二分の白い光の中から現れたことだけである。私の戸籍上の誕生日はその日になっている(「鳥」)。被爆地で生きる人々の原体験と、その後の日常を描く作品集。
時をこえて届くあの頃からの贈りもの。儚いけれど、揺るぎないー「家族」という絆。デブねこの赤い首輪にはさんだ手紙がつなぐ、ぼくとタカキの友情(「モノレールねこ」)。夫を待つ時間に取り組んだ白いパズルの中に、犬の気配が(「パズルの中の犬」)。家族をいっぺんに失った中学生の私と、ダメ叔父さんの二人暮らし(「マイ・フーリッシュ・アンクル」)。私と偽装結婚したミノさんは、死んだ婚約者がそばにいると信じていた(「シンデレラのお城」)。ロクデナシのクソオヤジに苦しめられてきた俺に、新しい家族ができた(「ポトスの樹」)。会社で、学校で、悩みを抱えた家族の姿を見守るザリガニの俺(「バルタン最期の日」)。
これから起こるかもしれない“奇跡”を描いた物語ー唄うことが大好きで、吟遊詩人になることを夢見る女の子、シオリ。そんな、歌を愛してやまない少女が苛酷な運命に翻弄される、痛いほど切ない新世代のピュア・ストーリー。
頑迷な男を襲う白昼夢。(「夕化粧」)人形作家の恐るべき新作。(「ピカルディの薔薇」)鳥を彩る伝説の真相。(「籠中花」)饒舌に語られる凄絶な食。(「フルーツ白玉」)稲生武太夫伝説への硬質なるオマージュ。(「夢三十夜」)未来を覗ける切符の対価(「甘い風」)猿渡の祖父が見た彼の幻の都。(「新京異聞」)江戸川乱歩、中井英夫の直系が紡ぐ、倦怠と残酷の悲喜劇。
文学部・心理学科・認知神経心理学研究室の分室『情報科』の室長を務める火鳥竜介はウェブサイトで超常現象、オカルト、神話伝承などを扱うフォーラムを複数主宰していて、そこに書き込みがあった。保育園の保母からで、ひとりの園児が高句麗のお姫様が竜の背中にのってお山に飛んでいくといいだしたという。お姫様が竜を踏んづけてなどという話になったが、何か悪いことがおこっていて、この園児の言葉は吉か凶かというような質問だった。高句麗の姫というのは、日本神話に登場する菊理媛と関係があると一部で強く言われていて、黄泉比良坂のシーンに登場するから暗黒世界の女神なのだが正体不明なのだ…。歴史部の面々も総登場の新たなる大きな謎は。
お姉ちゃんは殺された、同級生の男子に。偶然のバイク事故に見せかけて、殺されたんだ。美しくて、優しくて、心の真っ白な人だった。お姉ちゃんの死の真相は、あたしがはっきりさせるー。あとを追うように、姉と同じ都立高校を選んだ結花。だがそこには、覗いてはならない姉のおぞましい秘密がー。
借金返済のためにボーイズキャバクラでバイト中の大学生・竜弥のもとに突然、現れた義兄、英彦。幼き日、竜弥に憧れと恐れと…生まれて初めて欲情を抱かせた怜悧な義兄との8年ぶりの再会…だが、弁護士の英彦は、そんな竜弥の想いも知らず、常連客である人妻との不倫を詰る。身の潔白を証明すべく、竜弥は英彦の前に己の欲望のすべてを曝け出すことに…。