2025年3月13日発売
自分の身の上と文学仲間の動静を綴る傑作 --庄太の一枚看板みたいな私小説は、いまだに彼の頭へこびりついており、忘れた時分に作品も発表している。今後共、世間にもて囃されるようなものは覚束ないにしろ、片隅でコツコツ書いて行きたい、あぶれ者の自慰行為に似た執念は、相当のようであった。-- プロレタリア文学が一世を風靡し、短い文芸復興期を挟んで、戦争文学が主流になっていく戦前・戦中期。どの波にも乗れず、講演の抄録や短い文芸批評、地方紙の埋め草原稿などで糊口をしのいでいる小川庄太は、東京でやっていけなくなると故郷の小田原に戻り、実家が持つ物置小屋で寝起きしていた。やがて、他人のものに手を出すまでに困窮し、軍隊に入るか、牢に入るか、というところまで追いつめられて……。 自分と家族の身の上を縦軸に、文学仲間の動静を横軸にして淡々と綴る見本のような私小説。宇野浩二、中山義秀、田畑修一郎、火野葦平らが変名で登場し、文壇の裏事情が垣間見える傑作。
長崎を舞台に地を這うように生きる人を描く 「おれにまで長崎のことをかくそうとする。おれたちが浦上を歩いた時、お前はなんというた。ここも火、あそこも火じゃった。ここはもうのっぺらぼうで、足にまきついた電線をとったら髪の毛のようにふわっとしとった。あん時いうたことは、みんな嘘だったとか……」 戦時中に長崎の炭鉱で働いていた朝鮮人女性、原爆被害者たちが人たちが集まる海塔新田、原爆症をおそれる人、被差別部落出身者ーー。さまざまな立場の人間が、それぞれのエゴをむき出しにしつつ、地を這うように生きる人たちを描く表題作「地の群れ」を中心に、戦争に赴く若者が「ガダルカナル戦詩集」を輪読する同名の短篇、身を寄せ合うように生きる隠れキリシタンの集落に、原爆症の魔の手が忍び寄る「手の家」など、いずれもずしりと読み応えのある4篇を収録。
「白峯」「菊花の約」などで知られる上田秋成の古典「雨月物語」を下敷きにし、近未来を舞台に人間の業と怪異と家電(?)を描いた不思議で恐ろしい九つの短編集。 ・大企業「シラミネ」の経営者はデジタル遺影を片手に亡き祖母の思い出を語りはじめ……(「シラミネ」) ・オンライン空間「Kikka」の中で出会ったアカナと共に、ゲームの世界大会を目指す祐介だったが……(「キッカの契り」) ・見合いの席で、正太郎はから古めかしい炊飯器を見せられる。その炊飯器には曰くがあるようで……(「キビツの釜」)
吉田茂少年が、大磯の地で、徳川の忠義の士に襲われた! 夏休みをのんびり過ごすため、別荘・松籟邸に滞在している間の出来事である。 時は明治27年(1894)、日清戦争前夜、世の中では物騒な事件が頻発していた。 外相・陸奥宗光による最強国イギリスとの命懸けの駆け引きが成り、不平等条約改正にこぎつけた日本だったが、まだ徳川の世をひきずり、不満を持つ輩も多かったのである。 茂の危機を救ったのは、謎の隣人・天人(あまと)。茂は天人を慕い、天人も茂のことを気にかけてくれていた。 そんなある日、茂は大磯に滞在する陸奥宗光夫人・亮子から、天人の壮絶な前半生を明かされる。天人と亮子の切っても切れない関係を聞いた茂は……。 虚と実を巧みに織り交ぜた、明治冒険小説第二弾!
心に隙間を抱える人間のもとに現れる薄汚れた金の懐中時計。そこに刻まれた髑髏に血を吸わせると、持ち主の願いを必ず叶えてくれるという。しかし、もたらされたものは恐怖と絶望の連鎖だった…。 愚かな人間が地獄に囚われるさまを描いた阿泉来堂史上、最恐の連作短編集。 悪夢の深淵 騎士の誤算 傷ついた彼女 孤独のアイビー 復讐と再生の夢
森永卓郎氏。2025年1月、死去。 自身のライフワークだった寓話創作。その遺稿集、出版。 日本社会のタブーに「寓話」で斬り込む。命を賭けた衝撃の問題作28話! イソップを超えて、100年後、1000年後まで生き残る物語。 この世の中には決して触れてはいけないタブーがあります。 本書の28の寓話では、自分の目でみてきたタブーを書きました。 アニマル国、アニマル村のブタさん、イヌさん、ライオンさん、ハイエナさん、など動物たちが直面しているのは、現代社会が抱えるさまざまなタブーです。 真実に無知ではいけないから、 世の中の「ほんとうは怖い真相」を書きました。 本書で私が書いたのは、現状を打破するストーリーです。 〔1章 知ってはいけない〕 ・撃ち落とされたプテラノドン ・ネズミーバーガーの正体 ・オオカミ解説の正体 ・ニシキゴイは見ていた ・エビとカニのPK戦 ・凶弾に倒れたライオン王 ・猛獣レストラン ・ハイエナ王と呪術師 ・アニマル・トラフ大地震 ・来年の桜は見られない 〔2章 無知ではいけない〕 ・犬笛で動くメディア ・仕事は宗教家 ・フェレット弁護士がかざすルール ・熱帯魚挟み撃ち ・南の島の三匹の子豚 ・都会に出てきた三匹の子豚 ・ピンクの子羊 ・おばあといびき ・おばあとタバコ 〔3章 見てはいけない〕 ・王様が考えた口減らし ・コスパ良ければ強盗も ・マントルまで掘れ ・ゴールドラッシュ ・マンドリルの心変わり ・原爆ピカドン ・バスキアがやってきた ・プライベートジェット ・南の島の白い砂