著者 : 北野寿美枝
1958年、反共・反ユダヤ主義を標榜するジョセフ・マッカーシーがアメリカ大統領となり、権力を握っている。映画産業は国営化され、制作されるのは反共プロパガンダ映画ばかりだ。ロサンゼルス市警の刑事モリス・ベイカーは、そんなハリウッドで、ある殺人事件を担当することになる。被害者は元映画監督ジョン・ヒューストンと、新進気鋭の記者ウォルター・クロンカイト。現場には「悪魔どもをやっつけろ ベイカー」と書かれたメモが遺されていた。ふたりはなぜ殺され、ベイカーの名前がなぜあったのか?大統領配下の下院非米活動委員会(HUAC)の横やりが入り、捜査から外されたベイカーに、ソビエト連邦の謎めいた女スパイ、ソフィアが接触してくる。彼はソフィアとともに、俳優ハンフリー・ボガートや脚本家ダルトン・トランボらが暗躍する、もうひとつのハリウッドをさまよう。ユダヤ人のベイカーが大戦中のヨーロッパで過ごした過去の悪夢に悩まされながらー。異なる歴史を歩むハリウッドを舞台にした傑作ノワール。
巡査から15年かけて警視正までの階級を昇り、いまは女性の身で重大犯罪捜査局の指揮を執るフランキー・シーハン。事件現場での負傷から復帰した彼女がさっそく取り組んだのは、大学講師エレノアの首吊り死体が自宅で発見された事件だった。些細な手掛かりから他殺と見抜いたシーハンは、容疑者としてエレノアの夫の行方を追う。だがシーハン自身の故郷で起きた怪事件との関連が浮上し、事件は不気味な奥深さを見せ始めた!姿を見せぬ殺人者との息詰まる対決。アイルランドの首都ダブリンに展開する白熱の警察小説。
1975年2月、東ベルリン。東西を隔てる“壁”に接した墓地で少女の死体が発見された。現場に呼び出された刑事警察の女性班長ミュラー中尉は衝撃を受ける。少女の顔面は破壊され、歯もすべて失われていたのだ。これでは身元の調べようもない。現場にいち早く国家保安省のイェーガー中佐が来ており、やがて異例のことながら、事件の捜査がミュラーたちに命じられた。その背景には何かが?暗中模索の捜査は知らぬうちに国家の闇に迫っていく。社会主義国家での難事件を描き、CWA賞に輝いた歴史ミステリの傑作。
その夜、マルティンとオーサの夫婦が自宅近くのレストランで食事をしていた、そのほんのわずかな間に、11歳の娘マグダが自宅から忽然と消えた。必死に情報提供を呼びかける夫婦だったが、警察や世間は彼らに疑いをかける。夫婦の間でも互いへの疑心がつのり、やがて彼らの周囲の人々にも波紋は広がって…事件のそもそもの発端は?そしてマグダは今どこに?交錯する過去と現在の人間模様が描き出す鮮烈なサスペンス!
村から離れて住む一家の邸宅にとつぜん二人の男が侵入し、両親とその娘を邸内に拘禁する。男たちはその目的を明らかにしないまま、自由を奪った家族をじわじわといたぶってゆく。恐怖と絶望に支配される一家に救いの手はないのか?だが逃げ出した一家の飼い犬が、偶然にもキャフェリー警部のもとへ行き着いた。ウォーキングマンの示唆を受けたキャフェリーは、手がかりもないまま飼い主を探しはじめる。雲をつかむような捜索は、はたして一家を救えるか?「サスペンスの新女王」が放つ、緊迫感あふれる最新作。
1919年のニューオーリンズで、斧を使って殺人を繰り返す、アックスマンと呼ばれる犯人。「ジャズを聴いていない者は殺す」と予告までする殺人鬼を懸命に追う男女がいた。人種差別の強い街で、黒人の妻がいることを隠して困難な捜査をするタルボット警部補。ある事情から犯人を捕えるようマフィアに依頼された元刑事ルカ。ジャズマンと共に事件の解明に挑む探偵志願の若い女性アイダ。彼らの執念で明かされる衝撃の真相とは?実際に起きた未解決事件をもとに大胆な設定で描く、英国推理作家協会賞最優秀新人賞受賞作。
犯罪歴のある患者を収容するビーチウェイ重警備精神科医療施設は、不穏な空気に覆われていた。かつて救貧院だったここには、昔の職員の亡霊が出没するという噂があった。そこへ自傷行為の絶えなかった患者が死亡したことから、患者ばかりか施設の職員までもが怯えているのだ。上級職員のA・Jは、最近退院したばかりのある患者が舞い戻ったのではないかと疑うが上層部を気にする上司は事態への対応を渋る。悩んだ末にA・Jは独断で警察のキャフェリー警部に相談するが…エドガー賞受賞作『喪失』に続く話題作。
ファイナンシャル・アドバイザーのフォクストンは首の骨折で引退を余儀なくされた元競馬騎手。グランドナショナル観戦に出かけたところ、彼の真横で同僚のハーブが射殺された。プロの仕業と思しき手口だが、殺される理由には皆目見当がつかない。なぜかハーブの遺言執行者に指名されていたフォクストンがクレジットカード履歴を調べると、どうやら彼はインターネットギャンブルに手を染めていたようだ。そんな折、同居する恋人の態度が急変し、別の男の存在が気にかかりはじめる。やがて投資の急な解約を迫ってきた騎手の顧客サールが何者かに襲われ、別の巨額投資に疑いを抱くロバーツ大佐は急死した。事件を追うフォクストンの元にも銃を持った暗殺者がやってくる。電話線が切断され、携帯電話も通じず、母と恋人を巻き込まざるをえない状況でー。父の死後、ひとりで書いた本作は本国でも絶賛された。フェリックス・フランシスによる新・競馬シリーズ、ここにスタート!
元騎手で調査員のシッド・ハレーは、上院議員のエンストーン卿から持ち馬の八百長疑惑に関する調査を依頼された。しかしその直後八百長への関与を疑われた騎手が死体となって発見され、殺人容疑で逮捕された調教師も証拠不十分で釈放されたあと、不可解な自殺を遂げてしまう。真相究明に奔走するハレーだが、謎の刺客が最愛の恋人マリーナを襲う。不屈の男シッド・ハレーを四たび主役に迎えて、競馬シリーズ待望の再開。
障害レースの最高峰、チェルトナム・ゴールド・カップが行なわれる当日、元騎手の調査員シッド・ハレーは競馬場を訪れ、建設会社を経営する上院議員ジョニイ・エンストーン卿から仕事を依頼された。持ち馬が八百長に利用されている疑いがあるので、調べてほしいというのだ。彼は調教師のビル・バートンと騎手のヒュー・ウォーカーが怪しいという。ハレーは依頼を引き受けるが、その直後、競馬場の片隅でウォーカーの射殺死体が発見された。この日、ウォーカーとバートンが罵り合っているのを多くの人が目撃していた。そしてウォーカーは前夜、ハレーの留守番電話にメッセージを残していた。レースで八百長をするよう何者かに脅されていたらしく、「言うことをきかなければ殺す」と言われたという。やがてハレーは思わぬ経緯でウォーカーの父親から息子を殺した犯人を突き止めてほしいとの依頼を受ける。さらに知人から、ギャンブル法改正によって発生する不正についての調査も任される。こうしてハレーは三つの依頼を抱えることになった。そんな折、警察はバートンをウォーカー殺害容疑と八百長の疑いで逮捕する。彼は証拠不十分で釈放されるが、やがて事件が起きた。そのバートンが自宅で拳銃自殺をしたというのだ。どうしても彼が自殺したとは思えないハレーは、調査を進めていく。だが、卑劣な敵は、ハレーの最大の弱点である恋人のマリーナに照準を定め、魔手を伸ばしてきた!『大穴』『利腕』『敵手』に続き、不屈の男シッド・ハレー四たび登場!巨匠が六年の沈黙を破って放つ待望の競馬シリーズ最新作。
80歳を過ぎた今、70年前の夏の出来事を思い出すー11歳のぼくは暗い森に迷い込んだ。そこで出会ったのは伝説の怪物“ゴート・マン”。必死に逃げて河岸に辿りついたけれど、そこにも悪夢の光景が。体じゅうを切り裂かれた、黒人女性の全裸死体が木にぶらさがっていたんだ。ぼくは親には黙って殺人鬼の正体を調べようとするけど…恐怖と立ち向かう少年の日々を描き出す、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。
大恐慌に見舞われた1930年代、テキサス東部の製材所のある小さな町キャンプ・ラプチャー。大竜巻が襲ったある日、入り日のような赤毛のサンセット・ジョーンズは、治安官をつとめる夫ピートの暴力に耐えきれず、彼を射殺した。町に衝撃が走るが、彼女は正当防衛を主張した。やがて新たな治安官を決める集会が開かれ、ピートの母で町の有力者マリリンの強力な推薦で、サンセットは治安官に就任する。ピートの業務日誌を読み始めたサンセットは、ひとつの事件に注意を引かれた。それは、ある黒人の畑から甕に入った胎児の死体が見つかったというものだった。そして重大な知らせが入った。胎児が埋められていた畑から、今度は女性の死体が発見されたのだ。その女性は腹部を大きく切り裂かれていた。彼女は妊娠していた形跡があり、先に発見された胎児は彼女の子供らしいことが判明する。サンセットは殺人の容疑が自分にもかけられる中、二人の助手とともに調査を続けるが、件の黒人の畑をめぐる邪悪な陰謀が浮かび上がってくる。その陰謀は、サンセットの運命を大きく変えるものになるが…。MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞最優秀長篇賞受賞作『ボトムズ』の鬼才が真骨頂を発揮したサスペンス最新作。