太平洋の覇者(2)
比島攻略戦がはじまって一ヵ月、作戦は暗礁に乗りあげていた。芳しくない戦況は陸海軍の齟齬を来たし、両者の溝は深まりつつあった。「陸軍はできるだけのことをしている…」「…海軍部としては動きかねますな」田中新一参謀本部第一部長と黒島亀人軍令部第一課長の互いに譲らぬ主張は連絡会議を紛糾させ、混迷をきわめた。「もうよかろう、今は駆け引きなどしているときではない」山本五十六軍令部総長の凛とした声が響き、軍令部が頭を下げることで陸海軍一触即発の危機はかろうじて避けられた。思わぬ内憂に野分礼二首相はため息をつくばかりであった。さらに新たなる敵が野分、そして日本の前に立ちふさがろうとしていた。
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「うまくいけば、我々は太平洋に覇を唱えられる」「太平洋の覇者か…できることなら太平洋の王者といきたかったな」日米講和の道程を模索する野分礼二首相に、比島にて辛勝を収めた海軍軍令部総長山本五十六大将より、次なる作戦が提示されていた。アメリカ太平洋艦隊の根拠地を奇襲する-ハワイ作戦。ここで勝利を掌中にできれば、さしものアメリカとて和睦への機運が高まるはず。是が非にでも決行したいと熱く語る山本であったが、作戦そのものの難しさもさることながら、その実施を阻む存在、“内なる敵”陸軍という難題が立ちはだかっていた。作戦の概要が説明される大本営会議で野分が仕掛ける秘策とは?戦記シミュレーション小説の新しい波、堂々の完結篇。 1998/09/15 発売