著者 : 和田はつ子
若い頃秋川藩の城勤めをしていたゆみえは、宮坂涼庵の要請で藩の跡継ぎ・松剛丸の診察に共に出かけたが、追い返される。松剛丸は毒を盛られており、その背後には藩を我がものにしようとする家老遠藤源右衛門がいた。領民に救荒植物の知識を普及させようとしている宮坂の志に共感したゆみえは、母譲りの医術を活かして協力するようになる。宮坂に対する締め付けが厳しくなり、遠藤の陰謀もさらに明らかになって、二人は藩のために立ち上がる。薬草や医学を取り上げながら、権力争いを描いた、著者初の時代小説がいよいよ文庫化。
鋼次と“いしゃ・は・くち”を誹謗中傷する紙がばらまかれ、房楊枝が戻されてきた。おきわという女性と知り合った鋼次は、好意を抱くようになり、店を手伝いに出かけていく。ところが、その鋼次に身の危険が迫っていた。さらには、志保や妹のお房も狙われていく。その背後には、桂助の出生の秘密を知り、自らの権力拡大のため、桂助に口中医を辞めさせようとする者の存在があった。一方桂助は、実弟であることは伏せられたまま、将軍家定の歯の治療を直々に行ったのだった。さらなる激動を予感させる、人気シリーズ第六弾。
永久歯が生えてこないという娘おてるを診ることになった桂助。彼女は、桂助とともに長崎で学んだ斎藤久善の患者で、その見たては間違いなかった。斎藤のところには患者が多数詰めかけ、“いしゃ・は・くち”は閑散としていた。桂助はその前に、亡くなった恋人・彩花が、奇しくもおてると同じ病気だったことを知り、衝撃を受けていた。そこに、同心の友田からの依頼で、傷のない死体を診た桂助は、すみれの花の汁がついていたことを見つけ、その真相に迫っていくのだが…。新たに入れ歯師が仲間に加わることになる、人気シリーズ第五弾。
桂助の名を騙った者に治療されて子供が殺され、そのあと妻も自害したという武士が、仇を討つといってあらわれた。表乾一郎と名乗る男は、桂助と面会して誤解だと納得したが、上総屋のおいとが殺され、桂助は捕らえられる。いったん犯人が見つかったかに思えた偽口中医の事件だったが、犯行はさらに広がりを見せた。そして、桂助がついに突き止めた真犯人から、意外な絡繰りと背後に潜む悪の存在が明らかになる。今回は、熱心に求婚を迫る男が登場することで、桂助への思いとの間で揺れ動く志保の微妙な女ごころも描かれている。書き下ろし人気時代小説第四弾。
桂助の患者だった廻船問屋橘屋のお八重の突然の死をきっかけに、橘屋は店を畳むことに。背後に、かつて桂助の家族とも関わりのあった岩田屋勘助の存在が浮かび上がる。自分の商売を広げるためには、どんな汚い手を使うことも厭わない岩田屋が…。そして、桂助の出生にまつわる真実が明らかになる。それは、将軍家のこれからをも左右する重大なことだった。ある事件に関わることになった桂助は、自ら望んで、秘密をかぎつけた岩田屋と相対することに!『南天うさぎ』『手鞠花おゆう』に続く、口中医桂助シリーズの第三作。
歯の治療に訪れたおゆうは、女手一つで呉服屋を切り盛りする、あでやかな美女だった。おゆうは、店から独立して小間物屋をはじめるお紺のために、房楊枝を作ってほしいと桂助に頼んできた。ある日起こった火事の焼け跡から、その房楊枝を入れる袋が見つかり、下手人としておゆうが捕らえられた。彼女に好意を寄せる桂助と、それを心配する仲間の鋼次や志保も協力して、おゆうの嫌疑を晴らすために動くのだったが…。果たして、おゆう背後には!?『口中医桂助事件帖 南天うさぎ』に続く、大人気書き下ろしシリーズ第二作。
虫歯で命を失うこともあった江戸時代、庶民たちに歯の大切さを説き、虫歯で悩む者たちを長崎仕込みの知識で次々と救う口中医・藤屋桂助。その幼なじみで薬草の知識を持つ志保と、江戸の歯ブラシ・房楊枝職人の鋼次は、ともに力を合わせる若き仲間同士である。しかし、桂助のまわりでは謎の事件が次々と起こり、得体の知れない大きな流れに巻き込まれていく。大奥まで巻き込んで続発する事件の真相とは…。口中医桂助事件帖シリーズ第一作。
新宿御苑の桜の樹の下から、盲導犬が白骨死体を掘り出した。警視庁捜査一課の須原透刑事の通報で、慶和大学法医学教室の田代ゆり子が検死。死後三年の若い女性だが、白骨には赤い色素ヘンナが不気味に浮き出ていた。数日後、ゆり子は奥多摩湖で顔面だけ白骨化した若い女の水死体に遭遇、ついで、明治神宮・菖蒲園でまたも若い女の絞殺死体が…その顔面には、生体反応のある切り込みがあった。三体の異常な死体が意味するものは?ゆり子に仕掛けられる身の毛もよだつ猟奇の罠…。その陥穽に落ち込んだとき、彼女は真相を悟った!サイコホラーミステリーの名手が放つ異常犯罪傑作。
菅原良一は、図書館の近くで、ロープに吊り下げられたセーラー服姿の少女の死体を発見した。その縛られ方は彼が図書館に届けるはずだった『日本刑罰史』に書かれているものだった…。数日後、犯人と名乗る男から菅原あてに電話が入った。男は菅原がかつて出版した『誰かのせいだった』を読んでいるらしい。そして第二、第三の殺人予告がなされた!犯人の目的は一体何なのか?サイコ・ミステリーの書き下ろし長篇。
人間の焼け焦げた骨と肉の塊が英陽女子大助教授日下部のマンションに投げ込まれた。一方、日下部宅の近所の神社で白木の箱に入れられた新生児の死体が発見された。はたして二つの事件に接点はあるのか?日下部と女性刑事水野のコンビが、おぞましき事件の真相に挑む。
“天誅邪淫”-新宿のホテル街で惨殺された娼婦の身体の上には、半紙に墨で書かれた文字が残されていた。科学捜査研究所心理課の捜査官・加山知子は犯人像を追い始めるが、嘲笑うかのように、同様の文字を残し、女子中学生、バーのママが次々と殺害されてしまう。しかも手足切断、肝臓摘出と猟奇性は増していく。残された文字と、犯行の残虐性に何らかの意味を見た知子は、事件の核心に迫り始めるが…。
長女由加の高校進学をめぐって、この物語は始まる。由加は、ある国立大学の付属中学三年であるが、成績が思わしくなく、付属高校へは進めない。父親は、この国立大学の助教授。昔ながらの教育の理念を追う信念の人である。長女の成績に悩む妻に、ある情報がはいる-。必死の想いで夫に頼むが…。長女は成績のダウンで自暴自棄。追いつめられた妻は、長女の学校の教師と…。やがて夫はいままでの家族への認識が問違っていたことを思い知らされるのである。受験期の娘をもつ家庭の崩れゆく生活を描く。