著者 : 天藤真
二年三カ月ばかり食らい込んで出所したおれは、保護司の娘に一目惚れ。真人間になります、と厳粛に誓約して幸運にも高嶺の花を手折ることが叶ったのだ。しかし、白波稼業へ返り咲く夢断ち難く悶々と過ごす毎日。そんなおれの肚を読んだわが慧眼の恋女房殿は、なんとなんと「夫婦じゃないの。死ぬも生きるも一緒よ。二人で新しい怪盗を作りましょうよ」と宣うた。さても夫婦善哉。
日本シリーズを目前に控えた東京ヒーローズの桂監督が、東京タワーで不可解な失踪を遂げた。にわかに白熱化する大阪ダイヤとの日本シリーズ。しかもその真只中、今度は東京ヒーローズの代理監督が蒸発してしまった…。事件の陰に潜む黒い陰謀を暴こうと奔走する新聞記者や監督の娘比奈子の眼前に、やがて全野球ファンを熱狂の渦に巻き込んだ壮絶な戦いを操ろうとする巨大な魔の手の存在が明らかになる…。本書は、不可能興味の横溢する事件をユーモラスな筆致で描いた、野球ミステリの傑作である。
「困っちゃった、わたし、人を殺したの」結婚するから別れて欲しい、と言われ、かっとなって相手を突き飛ばしたところ、打ちどころが悪くて死んでしまった、という友人の告白を聞き、内縁関係にある女性で結成したグループの面々が架空の犯人をでっち上げたまでは良かったが、いないはずの人物に瓜二つの人間が実在したから話は混沌として…。予断を許さぬ展開と意外な結末。
山奥に武家屋敷さながらの旧家を構える会社社長が、まさに蟻の這い出る隙もないような鉄壁の密室の中で急死した。その被害者を取り巻く実に多彩な人間たち。事件の渦中に巻き込まれた計理事務所所員の主人公は、果たして無事、真相に辿り着くことができるだろうか。本書は、不可能状況下で起こった事件を、悠揚迫らざる筆致で描破した才人天藤真の、記念すべき長編デビュー作。
成城署の真名部警部は、偶然知り合った脳性マヒの少年の並外れた知性に瞠目するようになる。教えたばかりのオセロ・ゲームはたちまち連戦連敗の有様だ。そして、たまたま抱えている難事件の話をしたところ、岩井信一少年は車椅子に座ったまま、たちどころに真相を言い当てる…。数々のアイディアとトリックを駆使し、謎解きファンを堪能させずにはおかない連作推理短編の傑作。
紀州一の大富豪柳川家。その門前を今、鋭く見つめる三対の眼があった。健次、正義、平太。後に「虹の童子」の名で世界中を騒がせる誘拐団の若者達である。標的は女当主とし子刀自。慈愛溢れる人柄で、地元では生き神様と慕われる82歳のおばあちゃんだ。風雨にもめげず監視に励んだ3人は、持ち山の見回りに出た刀自の拉致に遂に成功。が、このおばあちゃん、タダ者じゃなかった。自分で身代金を決めた上に、その受渡し方法まで滔々と語り始めたのだ。かくして要求総額百億円、授受は全てテレビ中継という史上空前の誘拐劇が始まった。