著者 : 野口冨士男
昭和10年代から戦後までの文壇の舞台裏を描く。-個々の作品が独立した短篇であることはいうまでもないが、連続性を意図して執筆したことも事実であった。いわゆる連作であるが、変則的な長篇といえるかもしれない。文芸雑誌「行動」の編集者だった時代を描いた「浮きつつ遠く」、二・二六事件前後の作家たちとの交流を扱った「その日私は」、戦時中の文人たちの姿を活写した「暗い夜の私」、戦後の雑誌界や日本文藝家協会について触れる「真暗な朝」など、年代ごとの文壇の様子や作家の生の姿が垣間見える秀作短篇集。他に「ほとりの私」「深い海の底で」「彼と」の計7篇を収録。
明治も終りに近い頃、江戸川橋近くの鰻屋で育ちながら、家業を嫌い靴職人になった主人公・伊之吉が、たび重なる浮き沈みに揉まれながら生き抜いて行くー。丹念な心理描写ときめ細かな筆致で、靴職人の半生と関東大震災前の東京を鮮かに描く!太平洋戦争中には“不要不急”の小説として刊行を見送られ、戦後は出版社の倒産によってお蔵入りとなった“幻の長編小説”!野口冨士男・生誕110年を期し、78年の封印を解いてここに刊行!
川端康成文学賞受賞作を含む秀逸な短編7編。「もう来たらあかんよ。ほんまに来イへんな」昭和11年、大阪の置屋で出会った若い娼婦は、男が深みにはまってしまいかねない魔性を秘めており、実際に6人の男が破滅に追いやられていた。“私”ももうしばらく一緒にいたいと願うがー。和歌山、大阪をめぐる旅に出た男が40年前の一夜の記憶を辿っていく「なぎの葉考」のほか、70代の老夫婦が重い病気を抱えながら命を長らえていることにささやかな幸福を感じる「しあわせ」、“私”と確執のある父とその2番目の妻、子が入水自殺してしまう「耳のなかの風の声」など全7篇を収録した名作短編集。
父と母の半生を中心に、複雑な一族の系譜を私小説作家が揺るぎなく描き切った長編小説。新たに発見された、著者の手の入った原稿で野口冨士男の処女作ともいえる作品を七十余年の時を経て、初の文庫化。