小説むすび | 著者 : W・G・ゼーバルト

忘れ去られた廃墟を甦らせる…しかしそれは、未来の廃墟でもある。“私”という旅人は、荒涼とした風景に思索をめぐらし、破片を拾い上げ、過去の事跡から連想の糸をたぐる。消え去ったさまざまな時間と空間を、いまここに呼び戻している。

時を超えて重なり合うどの旅のどこにも、永遠の漂泊者「狩人グラフス」が影を落とす。カフカと同じ旅をした語り手の“私”は、死と暴力の予感におののいて、ヴェローナから逃げ帰る…。さまざまなものや人が響き合い、時間と場所を越えて行き来する。

異郷に暮らし、過去の記憶に苛まれる四人の男たちの生と死。

ウェールズの建築史家のアウステルリッツは、帝国主義の遺物の駅舎、裁判所、要塞都市、病院、監獄を見て回り、語り手の“私”に向かって驚くべき博識を開陳し、暴力と権力の歴史を語る。