著者 : 和泉桂
暘国辺境の村で父と倹しく暮らす永雪。 しかし突然、都に指南碁に行っていた父の訃報が届く。国王暗殺未遂で処刑されたというのだ。 父が謀叛などするはずがない。 永雪は真実を知るため、美しい少女のような容姿を生かし宮女として宮廷に潜り込むが、後宮の劇団戯作者・飛天に男とばれてしまう。 一介の戯作者とは思えない謎の男、飛天は何者なのか? 「おまえは雪ではないな。とびきりの華だ」 運命が交差する中華大河、開幕!
柴田晃26歳、料理人。信号無視の車にはねられ、目覚めたとき、あることに気づいた。自分の前世が源頼朝だということに。不思議な衝動にあらがえず向かった鎌倉で出会ったのは…「お会いしとうございました!佐殿!」頼朝の下男だったという三郎(現在の名前は次郎)との縁で、晃は鎌倉に引っ越すことを決意。目指すは鎌倉中を巡れるキッチンカー料理人だ。料理を通じて次第に鎌倉に根を張っていく晃。しかしかつての弟・義経のことが気になってー。再出発はここから。いざ、鎌倉!
SEとして働く望は、疲れていた。飲み会の帰りの電車で座ってしまったのもまずかった。寝過ごしてしまい、気付けば鎌倉…。途方に暮れる望に、一匹の黒猫が近付いてきた。人懐こい黒猫に導かれるように辿り着いたのは、一軒の古民家。「営業中」の看板しかないが、漂う温かくいい匂いに惹かれ、勇気を出して入ってみるとー「うちの店にメニューはない。あんたに必要だと思うものを作る」故郷の味、家庭の味。ホッとする料理が、いつの間にか元気をくれる。お代は言い値でかまいません。書き下ろし。
「スープ屋かまくら」は、鎌倉野菜を使った週替わりのスープのみという、北鎌倉にある小さなお店。イケメンだがコミュ障の琳がスープをつくり、人当たりのいい乾が給仕をする。イケメン兄弟のスープ屋とSNSでも赤丸急上昇中だが、じつは兄弟にはスープ屋の他にもうひとつ仕事があった。それは「鎌倉のあやかしお世話係」。不思議なモノたちが今も生まれる鎌倉で、傷ついた彼らをスープで癒やしたり、時には荒ぶる彼らを鎮めたりー。兄弟を頼り、今日も店にあやかしたちが訪れる。
バーテンダーの仕事を根気よく続けていた成見の前に、兄・英彰が現れた。「おまえが必要なんだ」英彰は、かつて仁科が口にしてくれた、成見が一番好きな、一番欲しかった言葉を繰り返す。肉親の愛に恵まれなかった成見は、初めてその温もりに接して-。自分を拾った仁科に所有されなくなった今、成見は次の飼い主を探さなくてはならなかった。「俺を…兄さんのものにしてよ…」。
目を開けるとベッドサイドに千冬が座っていた。「料理か、あんたか、どっちか選べって言ってるんだろ?」あまりにも唐突すぎる彼の言葉に、吉野は戸惑うほかなかった。エリタージュで修業を続ける千冬のもとへフランス留学の話が持ち上がる。吉野と離れ離れになることへの不安と、自身の弱さに失望するなか、千冬は右手に怪我を負い。
近づいてくる男の気配を感じ、成見が座ったまま後ずさると、彼は身を屈めて耳元に唇を寄せてくる。「-君が欲しいんだ」ぞくっとするほど低く穏やかな声が、成見の鼓膜を震わせていった。予備校生の成見智彰は、渋谷の街で不審な男に勧誘される。強引につれていかれたビルの地下で男の口から囁かれた言葉に、成見の心は捕らわれて-。
ビストロ「レピシエ」は、千冬が幼なじみの如月と二人きりで続けてきた大切な場所だった。しかし、ライバル店の出現によって「レピシエ」が経営難に陥っていることを知った如月は、ついに閉店を決意する。途方に暮れる千冬は、唯一、自分の料理を求める吉野のもとで暮らし始めるが…。「シェフじゃない俺なんか、興味ないんだろ?」幼なじみと料理を作る意欲をなくした今、千冬は吉野の愛さえ信じられなくなっていた。
「どうして俺の料理を食べてくれないんだ」自分自身を見失い、自信をなくしかけている千冬の声に、吉野の心はひどく揺らいだ。証券アナリスト吉野貴弘は、理想の味を作り出すビストロのシェフ・千冬に強く惹かれていた。無愛想で人を寄せつけない千秋は、吉野の存在を認めながらも、言葉では何も伝えられないままで…。そんなある日、赤字続きの「レピシエ」にライバル店が現れた。
真っ白な皿の上に、トマトの鮮やかな赤、アスパラのグリーン…。ソースの一滴一滴が心に染み込む。泣きたくなるくらい懐かしくていとおしい味だった。…モデルのような外見の証券アナリスト吉野貴弘は、探し求めていた味にようやく巡りあった。「いったい、どんな人間が作ったんだろう」厨房から出てきた長身の青年を見て、思わず吉野は息を呑んだ。美形、だったのだ。