著者 : 山田章博
「夢を見せてあげよう」-しかし、荒廃と困窮を止められぬ国。采王砥尚の言葉を信じ、華胥華朶の枝を抱く采麟の願いは叶うのか。「暖かいところへ行ってみたくはないか?」-泰王驍宗の命で漣国へと赴いた泰麟。雪に埋もれる戴国の麒麟が、そこに見たものは。峯王仲韃の大逆を煽動した月渓は、圧政に苦しむ民を平和に導いてくれるのだろうか。陽子が初めて心を通わせた楽俊は、いま。希う幸福への道程を描く短編集。
登極から半年、疾風の勢いで戴国を整える泰王驍宗は、反乱鎮圧に赴き、未だ戻らず。そして、弑逆の知らせに衝撃を受けた台輔泰麒は、忽然と姿を消した!虚海のなかに孤立し、冬には極寒の地となる戴はいま、王と麒麟を失くし、災厄と妖魔が蹂躙する処。人は身も心も凍てついていく。もはや、自らを救うことも叶わぬ国と民ー。将軍李斎は景王陽子に会うため、天を翔る!待望のシリーズ、満を持して登場。
鳴蝕。山が震え、大地が揺れ世界が歪み、泰麒は、十の歳まで過ごした蓬莢にいた。帰りたいー。しかし、その術を知らない。泰麒が異界でひとり懊悩する頃、戴国には謀反によって偽王が立ち、日ごと荒れていた。その行く末を案じ、泰台輔と同じ胎果である誼の陽子を頼り、慶国を目指した李斎は思う。麒麟がいなければ、真の王はあり得ない、と。そしていま、雁国をはじめとする、諸国の王と麒麟が、戴国のために立ち上がる。
恭国は、先王が斃れてから27年。王を失くした国の治安は乱れ、災厄は続き、妖魔までが徘徊するほどに荒んでいた。首都連檣に住む珠晶は、豪商の父をもち、不自由のない生活と充分な教育を受けて育った。しかし、その暮らしぶりとは裏腹に、日ごとに混迷の様相を呈していく国を憂う少女は、王を選ぶ麒麟に天意を諮るため、ついに蓬山をめざす。珠晶、12歳の決断。「恭国を統べるのは、あたししかいない」。
景王ー陽子は、官吏の圧政で多くの民が重税や苦役に喘いでいることを漸く知り、己の不甲斐なさに苦悶していた。祥瓊は、父峯王が、簒奪者に弑逆されなければならないほど、国が荒んでいることに気づかなかった自分を恥じていた。鈴は、華軒に轢き殺された友・清秀の命を守れなかった自分に憤り、仇討ちを誓った。-それぞれの苦難を抱えた三人の少女たちの邂逅は、はたして希望の出発となるのか。
慶国に、玉座に就きながらも、王たる己に逡巡し、忸怩たる思いに苦悩する陽子がいた。芳国に、王と王后である父母を目前で殺され、公主の位を剥奪されて哭く祥瓊がいた。そして、才国に、蓬莱で親に捨てられ、虚海に落ちたところを拾われて後、仙のもとで苦業を強いられ、蔑まれて涙する鈴がいた。負うにはあまりある苦難の末に、安らぎと幸せを求めて、それぞれに旅立つ少女たち。その果てしない人生の門が、いま開かれる。
「国がほしいか。ならば、一国をお前にやる」これが、雁州国延王・尚隆と、延麒・六太とが交わした誓約だった。民らが、かつての暴君によって廃墟となった雁国の再興を願い続けるなか、漸く新王が玉座に就いたのだ。それから二十年をかけて、黒い土は緑の大地にと、生まれかわりつつある。しかし、ともに幸福を探し求めたふたりのこどもの邂逅が、やがて、この国の王と麒麟と民との運命を、怒涛の渦に巻きこんでいく。
とてつもない妖と対峙した泰麒は、身動もせず、その双眸を睨み続けた。長い時間が過ぎ、やがて発した言葉は「使令に下れ」。異界へ連れてこられても、転変もできず、使令も持たなかった泰麒は、このとき、まさに己れが「麒麟」であることを悟った。しかし、この方こそ私がお仕えする「ただひとり」の王と信じる驍宗を前に、泰麒には未だ、天啓はないまま。ついに、幼い神獣が王を選ぶー。故郷を動かす決断の瞬間が来た。
麒麟は王を選び、王にお仕えする神獣。金の果実として蓬山の木に実り、親はいない。かわりに、女怪はその実が孵る日までの十月を、かたときも離れず、守りつづけるはずだった。しかし、大地が鳴り、大気が歪む蝕が起きたとき、金の実は流されてしまった。それから十年。探しあてた実は、蓬莱で“人”として生まれ育っていた。戴国の王を選ぶため連れ戻されたが、麒麟に姿を変える術さえ持たぬ泰麒ー。幼ない少年の葛藤が始まる。
「私を、異界へ喚んだのは、誰?」海に映る美しい月影をぬけ、ここへ連れてこられた陽子に、妖魔は容赦なく襲いかかり、人もまた、陽子を裏切る。試練に身も心も傷つく陽子を救ったのは、信じることを教えてくれた「ただひとり」の友ー楽俊。ひとりぼっちの旅は、ふたりになった。しかし、“なぜ、陽子が異界へ喚ばれたのか?なぜ、命を狙われるのか?”その真相が明かされたとき、陽子は、とてつもない決断を迫られる。
「あなたは私の主、お迎えにまいりました」学校に、ケイキと名のる男が突然、現われて、陽子を連れ去った。海に映る月の光をくぐりぬけ、辿りついたところは、地図にない国。そして、ここで陽子を待ちうけていたのは、のどかな風景とは裏腹に、闇から躍りでる異形の獣たちとの戦いだった。「なぜ、あたしをここへ連れてきたの?」陽子を異界へ喚んだのは誰なのか?帰るあてもない陽子の孤独な旅が、いま始まる。