著者 : 柳家喬太郎
異世界ターミナル、そこに長い間敵対し、憎み合う二つの国、サイトピアとマドカピアがあった。その二国の領土の丁度中間地点に、突如誰も見たこともない出で立ちの城(寄席小屋)が建ち、新しい国が誕生した。その国の名こそ「招笑亭」。王の名は楽々亭一福。現代から召喚されてきた噺家の一福は、笑いで世界を征服する為、招笑亭で落語を披露する。「ソード算【壺算】」「ミス・バミューダ=トライアングル【たらちね】」「イドのティーポッド【井戸の茶碗】」現代の落語を異世界風にアレンジして演じるその様式は「異世界落語」と呼ばれ、一福の名は国を超え、大陸を超え、知れ渡っていき、招笑亭近隣も発展し、宿屋、土産物屋等が立ち並び「ラクゴ村」なる商業集落まで生まれていた。
壮絶な過去が明かされ、異世界と向き合うことを決めた現代の噺家、楽々亭一福。マドカピアで落語を披露する日々の中、彼の人々への関わり方には、徐々に変化が生まれていた。囚われの身となったサイトピアの勇者ラッカを救う為、一福は独房を訪れ、差し入れを渡す。それがきっかけで、ラッカの夢にはかつての相棒で、クエストで命を落としたピートが頻繁に現れるようになるのだがー。『つる』『あたま山』『抜け雀』等々、メジャーネタのオンパレード!リミッターの外れた噺家が世界を変えて変えて変えまくる。序章は終わりを告げ、物語は急転直下の勢いを見せ、遂に噺家が世界を救う抱腹絶倒ファンタジーの幕が切って落とされる!
現代の噺家・楽々亭一福は、マドカピア王国でも変わらずに落語を披露し続けていた。一福を気に入っているモーニングラウンド王は、正式に宮廷ハナシカにならないか、と持ち掛けるのだが、一福はその誘いを断ってしまう。「自分は落語をやるだけ」というスタンスを頑なに崩さない一福に疑問を抱いたアヤメは、闇魔法を使って寝ている一福の過去を覗き見る。そこに見たのは師匠の七福や弟弟子の多ら福とともに、平和な世界で落語を披露している一福の姿だった。しかし、一福の幼馴染の女性、小春の婚約を巡って、事態は想定外の方向に動いていきー。
サイトピアを南下した場所にある、マドカ大陸ーー通称「魔大陸」。人類の敵である魔族が住み、今も戦争を繰り広げている因縁の敵国。その魔族の国マドカピアに、現代の噺家、楽々亭一福はいた。サイトピアに間者として紛れ込んでいたアヤメの暗躍によってマドカピアに拐われた一福は、ラッカとクランエ達の必死の救出作戦も失敗し、単身で敵地の中心に取り残されていたのだが……。「それでは毎度ばかばかしい噺で一席でおつき合い願います」一福が扇子でトンと、舞台を叩く。その瞬間ーー世界が、変わる。一福は魔族を相手に、変わらず落語を演じ続けていた。
手違いで異世界に召喚された現代の噺家、楽々亭一福。異世界落語を演じてサイトピアで多大な人気と流行を生み出しているが、全てが好意的に受け取られるとは限らない。魔族を登場人物にした噺で、逆風に晒されてしまう事も。また、一福の高座の妨害を企てる吟遊詩人のセイ=ホウ、隠れ里より遣わされた魔法使い見習いのナナセなど、一福の芸に懐疑の念を抱く者達も現れる。批判に晒され、落語の真価が問われるがー。そして、その裏で糸を引き、暗躍する魔族の手が、一福に忍び寄る。