著者 : 深沢梨絵
伝心パスワード(上)伝心パスワード(上)
天井の蛍光灯に目をやりながら、俺はなかば無意識のまま、自分の唇に触れていた。奴の唇がかすめていった感触が、まだうっすらと残っているような気がして…。-グワン、と軽い振動を起こして停まったエレベーターから、俺は慌てて飛びだす。ヘンだよな、俺。なんで顔が赤らむんだと、そのとき。俺の視界に、これ見よがしなべルサーチの柄が。あれは、もしや…。「-磯崎先輩」。
微熱ベーゼ微熱ベーゼ
「このヒヨッコが、どうにか一人前みたいな顔で仕事してるんだな」エラソーな態度で声をかけてきた磯崎駿平。俺、三紀の先輩であり、業界内では超有名な花形コピーライターだ。今回、新作口紅のキャンペーン用の広告案を、この人と競うことになってしまった俺は、早くも戦々恐々としていた。ところが、先輩から突然、「コンペを降りる」という電話をもらって-。
ベイビー・ステップベイビー・ステップ
「和彦?私よ、早く開けて」インターフォン越しに響いてくる、聞き覚えのある声。そのときから、俺の受難の日々が始まった-。俺、三紀。広告代理店に入社してもうすぐ一年。上司にはシゴかれ、再会した元同級生・高岸にはからかわれ、苦労の絶えない毎日だ。そのうえ、赤ちゃん連れのハリケーンまでやってきて、もう、どうにかしてくれよ。『本気で欲しけりゃモノにしろ!』第二弾。
本気(マジ)で欲しけりゃモノにしろ!本気(マジ)で欲しけりゃモノにしろ!
“ウマが合わない奴”って言葉があるけど、高岸はまさにソレなんだよな…。俺、三紀。広告代理店に勤める、駆け出しのコピーライターだ。大きな仕事をまかされて、気の張る毎日を送っている。ただでさえも大変なのに、“気鋭の新進カメラマン”として、高岸がプロジェクトに参加する!?よりにもよって、大の苦手だった元同級生と、職場で再会だなんて…。ため息をつく俺の前に、問題発生。
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