著者 : 犬塚惇平
テレビアニメ第2期が大好評放送中(2021年10月現在)。オムニバス形式のエピソード集としてお届けする待望の第6巻。猫の絵が描かれた樫の木の扉を開けて「いらっしゃいませ」の声に導かれて歩を進めると、窓もないのに不思議と明るい部屋の中。古いながらも清潔で心地よい内装。出されたメニューに書かれた料理名は日本人なら誰もが知っている料理。しかし「あちらの世界の人たち」にとっては見たことも聞いたこともない料理ばかり。「こちらでは普通なんですが…」と言って店主が作る料理に「あちらの世界の人たち」は魅了される。生まれも、育ちも、種族もばらばらな客たちは、週に一度、土曜日だけ開店するその店をこう呼ぶー「異世界食堂」。さぁ、今週のお客様の注文は?
オフィス街に程近い商店街の一角、古い雑居ビルの地下一階にある『洋食のねこや』。平日はサラリーマンが多く通うありふれた洋食屋は、一週間に一度、土曜日にだけ「特別」なお店になる。先代の頃より三十年間「向こう」の客を絶品料理でもてなしていた『異世界食堂』は、『異世界料理のねこや』として新装開店する。それは、店の主が変わった一つの区切りの証。けれど、新たな看板を掲げて名前が変わっても、小さな食堂の営みは変わらない。ちょっと変わった給仕とともに、訪れた人々に美味しい料理をふるまい続ける。チリンチリンーー。そうして今日もまた、土曜日に鐘が鳴る。
家族を持ったことのない、遠い異世界からやってきた女。家族を失い遠い大陸から戻ってきた男。終戦間もない混沌の時代に二人は出会った。女ができた仕事はただ一つ。魔王を狩ることのみ。男ができる仕事はただ一つ。料理を作ることのみ。やがて女と男は店を持ち、家族を作り、そして異世界の客を招く。かくて始まりし『異世界食堂』。毎週土曜日にだけ開くこの店は、絶品の料理で、多くの客をもてなす。『洋食のねこや』、創業五十年。『異世界食堂』、開店三十年。今日も、チリンチリンと扉が開く。
七日に一度現れる、遠い異世界へとつながる、魔法の扉。その扉の先には、不思議な料理屋がある。洋食のねこや。窓一つ無いのに不思議と明るい部屋の中には見たこともないような内装。出てくる料理は不思議な、されど美味しい料理。どの料理が一番旨いか。時折話題には上るが結論が出たことはない。彼らは料理を食べて語らい、時に新しい発見をする。そんな『異世界食堂』に、気配を消して働く、新たな給仕が加わった。チリンチリンーそしてまた、土曜日が来るたびに鈴が鳴る。