著者 : 茅田砂胡
食事だと言われて居間へ移ったリィは、その瞬間、顔をしかめた。部屋中に強烈な甘い匂いが漂っている。ドーナツ、デニッシュ、パイ、マフィン。数種類のケーキ。トーストの類もあるが、用意されているのはピーナツバターやジャムなど、見事に甘いものばかりだ。さらにスナック菓子や炭酸飲料が並んでいる。男は髭もじゃの顔で笑っている。「おいしそうだろう。きみの好きそうなものばかり用意させたんだ」「ヴィッキー?」と声をかけられて振り向くと、銃口が突きつけられた。だが怪しい風体の男からは、敵意も害意も感じられなかった。「頼むから一緒に来てくれ」と言う口調には、困惑した様子がうかがえたー奇妙この上ない誘拐劇。
大華三国の一角、デルフィニア、かの地に二人の若者がいた。ひとりは王国を代表する大貴族であり、国王の縁戚でもある筆頭公爵家の才気煥発な十二歳の嫡子。一方、身分では比べものにならぬ地方貴族の子息ながらも、天才的な腕を持つ十七歳の剣士。国王崩御の混乱の陰で彼らは戦うー未来を掴むそのために。
ヴァンツァーはレティシアに机の上の写真を見るよう、身振りで示した。大の男が眼を背けるほど凄惨な写真を前にしてもレティシアは顔色一つ変えなかった。「こりゃまた派手にやったもんだ」写真の内容に衝撃は受けないにせよ、それ以上の関心もないらしい。「おまえがやったと思っているらしい」「俺が!?」ヴァンツァーは無言で頷いた。こちらは何やら笑いを噛み殺しているような妙な顔つきだった。レティシアは逆に茫然と立ちつくしている。「…嘘だろう?」(ファロットの美意識)。連続惨殺事件が起きていた。犯人か?と疑われたレティシアは意外な行動に出て…。各界のプロフェッショナルの活躍を描く中・短篇3本を収録。
「-ねえ、歌が聞こえない?」ケリーもジャスミンもきょとんとなった。「感応頭脳にしか聞こえない歌?」そんなものがあるのかと思ったが、ダイアナはそのまま恒星クレイドに向かって猛然と加速を開始したのだ。ジャスミンは顔色を変えて叫んだ。「何とかしろ、海賊!」と言われても、五十年のつきあいのあるケリーもこんなダイアナを見るのは初めてだったのだ。「なんだかわたし歌いたい気分だわ」人間二人が自分の耳を疑う中、ダイアナは本当に調子っぱずれに歌い出した。「きゃはは!楽しいわねえ!」-ケリーもジャスミンも凍りついた。ケリーたちがこの辺境の星系に赴いたのはなぜか?ここに、何が隠されているのか?ダイアナの変調の訳は?期待の新シリーズーいよいよ開幕。
黒い天使がセントラル星系を崩壊させかねない災厄を起こしていた一方で、彼らは平穏で地道な一般市民的(天使及びゾンビ主観において、ではあるが)学園生活を送っていた!渾身の作の小論文に『不可』を出されヴァンツァーは落第の危機に。教授の特殊な趣味を知って行動を起こす彼らの活躍を描いた「一般市民のすすめ」など中・短篇4作を収録した外伝2。
リィ捨て身の攻撃でルウの暴走は抑えられた。セントラル宙域の壊滅は免れたのである。しかし脱出を急ぐ一行の前にふたたび“悪しきもの”が立ち塞がり、執拗にルウに迫るのだった!『天使の舞闘会』で語られなかった脱出劇の顛末を描く『嵐の後』。さらにダンの息子ジェムが、母親のルウを探しに行くと言い出して大騒動になる『宇宙一不幸な男』の2篇を収録した外伝。
リィの身体が光る。黄金の髪は輝き、額には第三の眼のごとき濃緑の宝石をはめ込んだ銀細工の輪。腰に剣を佩くその姿はーシェラのよく知る第一級の戦士の雄姿だった。「おまえが迎えに来てくれ」という一言をシェラに残して、リィは暴走するルウの元に跳ぶ。たとえ二人の再会が死を意味したとしても…。暁の天使たち、完結篇。
「きみのお母さんが生きている」突然アレクサンダーから告げられてダンは呆然とした。しかも「お母さんの復活に伴ってお父さんも蘇ってくる」とは何事だ!?ところがこの“彼”の再生体が連邦情報局によって強奪された!己の中に本物の彼を宿しているルウは困惑しーそして奪われた“彼”を追って連邦に乗り込むが。
異世界から来たシェラにとって“この世界”は魔法に満ちていた。科学という“誰にも平等に使える魔法”が、人の代わりに何でもやってくれる。しかしシェラは知っていた。“限られた者たちにしか使えない魔法”の存在を。-魔法惑星ボンジュイの存在を。ついに黄金の太陽リィと銀の月シェラ、そして闇のルウの3人が集う。この世界ー宇宙に何が起きるのか。
30年と限られていたジャスミンの命。しかし訪れるはずのない誕生日を4回迎えた彼女は、その日々、何を思い過ごしたのだろう。そして総帥の地位を継いだケリーは何を見据え生きたのだろう。二人の言葉と想いが残された。本編では語られることのなかった死の直前の女王の姿とキングのその後を描く外伝登場。
ジャスミンの出産を控えてケリーが総帥代理の任についたとたん無人車は暴走し強化硝子が落下し重役たちの露骨な抱込み工作がはじまった。でもね、こんなのは余興にすぎない。あの気障で自信過剰ではた迷惑な銀髪のあいつが現れたのだから私は瞬時にリミッターを解除した。ダイアナ・イレヴンス発進。
一匹狼のこの俺が、あろうことか巨大財閥の副総帥におさまった。総帥のジャスミンと結婚したからだ。おまけにこの女王には物騒な敵がいて、街中でコマンド部隊に襲われるは、探査宇宙船は消失するは。当分、退屈だけはしそうにないがこんどはニンシン?だと!?海賊なんだぞ、これでも俺は…。どうにも異色な宇宙恋愛物語。
奇妙な仕事が舞い込んだ。一年だけ結婚してくれ、だと?お相手はあのクーア財閥の女王だ。殺しても死なない男がご希望だとか。理由や事情は知らないが、宇宙きってのお尋ね者『海賊達の王(キング・オブ・パイレーツ)』向きの仕事じゃない。一匹狼の海賊の誇りをかけて、決着を宙(そら)でつけることになったが…かなり異色な宇宙恋愛物語(スペース・ラブ・ストーリー)。
放浪の戦士と異世界の少女の出逢い、すべてはここから始まった。盟約という堅い絆で結ばれた二人は、いくたの危地を乗り越え、あまたの合戦に勝ち抜いて、戦士は大国の王に、少女は王と国の守護神となった。獅子王と妃将軍がつむぐ、デルフィニアの伝説がここに完結する。
リィを嫡子ナジェックの妻とする!勝利の女神を辱め、デルフィニアの戦意を削がんとするゾラタスの卑劣な策に、三騎はタンガへの途をひた走る。王位を捨て一戦士に戻ったウォル、異世界の相棒ルウ、己の意志で行動するシェラー。昏々と眠り続けるリィだったが…。難攻不落のボナリス城に轟音が響く時、最後の奇跡が始まった。
徒党を組んで反旗を翻したグラハム卿ら西部領主との決戦に国王ウォルの軍は大敗を喫した。頼みのラモナ騎士団は壊滅しウォルは囚われの身に…さらにパラスト・タンガの二国はこの機に乗じて同盟を結び虎視眈々とタウ山脈の金銀鉱を狙う。内憂外患デルフィニアの危地に姿を消した王妃リイの真意は。