著者 : 行田尚希
仕事から逃避して鎌倉旅行へ来た御木本小町は、不運な手違いで宿泊先を失う。辿り着いたのは、神月と佐野、男二人が切り盛りするゲストハウス。そこでは“特別な夜食”が提供されるらしい。「…元気が出るケーキが食べたい」亡き母の手料理に思いを馳せる小町の姿に、二人はそのケーキを再現しようと試みる。記憶を頼りに解き明かされるレシピ。そこに詰まっていた母の意外な心情とはー。宿泊客の思い出の料理を通じて紡がれる、心温まる物語。
鎌倉にある呉服屋の長女・紬は、どうしても着物に興味をもてず、店の経営に腐心する日々を送っていた。そんな様子を見かねた両親の強引な指示によって、彼女は神楽坂の路地裏に建つ悉皆屋で修業することになる。仕立て直しや洗い張りなど、着物のメンテナンスを一手に引き受ける悉皆屋。飄々とした店主や軟派な大学生らと共にこの店で働くうち、紬はこれまで気づかなかった着物の魅力にはまっていくー。瀟洒な街・神楽坂には、日本伝統の美が、よく似合う。心を豊かにしてくれる着物にまつわる短編連作。
千葉県の〈こはるの駅〉に勤める若き駅員・日渡は、ある日、問題児がいることで有名な遺失物係へと配属される。 ネガティブな思考で周囲を困惑させる須藤。空気を読まない発言ばかり連発する成島。この個性的な二人とともに、真面目な日渡は、日々届けられる奇妙な落としものと、複雑な事情を抱えた落とし主に、真摯に向かい合っていく。 まるくてトゲトゲした小動物、抱えきれない大きな花束……駅で見つかる落としものには、ささやかだが心温まるドラマが詰まっているーー。
僕は朝倉柊二郎。実は僕、昔から幽霊に悩まされていてね。だから家族から「ロンドンには幽霊がいない」と言われて、二十世紀になったばかりのロンドンに、たった一人でやってきたんだ。だけど街は幽霊だらけじゃないか!騙された!!気落ちして街を歩いていると、鮮やかな青の着物に身を包んだ少女を見つける。ああ、幽霊だ…。でも、いつもなら目を逸らすのに、なぜか彼女からは目が離せなかった。これが、僕を変えることになる少女との出会いー。
おいら、柴犬の真白。お春ちゃんが重い病にかかってしまった。そんなとき、「伊勢という場所に大神宮があって、そこには八百万の神様の中でも一番大きな力をもつ神様がいる。その神様にお願いすると、なんでも叶えてもらえる」って聞いたんだ。おいら、伊勢に行くよ!そして、大好きなお春ちゃんを元気にしてもらうんだ!!でもさ、伊勢ってどこ?江戸から伊勢まで約470kmの波瀾万丈の旅。真白は無事、伊勢に着けるのだろうか?
瀬戸内海に浮かぶ小さな島に建つ、茅埜辺市立博物館。遠くから見る光景は、まるで海に浮かんでいるかのよう。美しい自然に囲まれたその博物館では、個性豊かな学芸員たちが日々、懸命に働いている。そして訪れる客たちも、いわくつきの人ばかり。そんな素敵(?)な環境の中、臨時職員として働きはじめたばかりの新人女子・若菜は、悪戦苦闘しながらも、笑顔を忘れず、成長していく。書き下ろし。
路地裏にひっそりと佇む、加納表具店。店を営むのは、若く美しい環。掛け軸や屏風に込められた思念を鎮める仕事を引き受けている彼女のもとには、様々な事情を抱えた妖怪が相談を持ち込んでくる。今回登場するのは、ミュージシャンをめざす“鵺”、弁護士として働く“天邪鬼”、そして“雪女”の蓮華。彼らの悩みに触れるうち、高校生・洸之介は自分の将来を考えるようになるのだったー。人間と妖怪が織りなす、ほろ苦くも、どこか懐かしい不思議な物語。これにて完結!!
路地裏にひっそりと佇む、加納表具店。店を営むのは、若く美しい環。実は彼女、五百年以上も生きている化け狐だった。掛け軸や屏風などにこめられた思念を鎮める仕事を引き受けている彼女のもとには、様々な事情を抱えた妖怪が相談を持ち込んでくる。環に弟子入りした人間の高校生・洸之介は、さまざまな妖怪と知り合い、やがて心を通わせていくことになるー。人間と妖怪が織りなす、ほろ苦くも微笑ましい、どこか懐かしい不思議な物語。待望の続編が、いよいよ登場!
高校生の小幡洸之介は、画家である父の作品が夜になると動き出すという怪奇現象に悩まされていた。「そうした事件を解決してくれる場所がある」と耳にして訪ねると、そこはいかにも怪しげな日本家屋。意を決して中へ入った洸之介が目にしたのは、驚くような光景だった。そして彼は、加納環と名乗る、若く美しい女表具師と出会うー。人間と妖怪が織りなす、ほろ苦くも微笑ましい、どこか懐かしい不思議な物語。第19回電撃小説大賞“メディアワークス文庫賞”受賞作。