キノの旅XI the Beautiful World(11)
ある春の日。山からの冷たい雪解け水が、森の緑に活力を与え始める頃ーーー。 朝の日を背に受けて、キノとエルメスは、とある国を見下ろす山の上にいました。あとはもう道を下っていくと、そこにある森に囲まれた広い城壁の中へと、城門へとたどり着く場所でしたが、「こりゃ入れないね、キノ」エルメスとキノは、そこから動こうとしません。見えるのは、国内のあちこちで上がっている火の手でした。たくさんの家が燃えています。風に乗って、薄く煙が、そして人間の悲鳴が聞こえました。(「お花畑の国」)他、--全11話収録
関連ラノベ
砂と岩の砂漠の真ん中で、キノは空を見上げていた。晴れている。 頭を下げて、石造りの口を開ける井戸を見た。涸れている。 「だから言ったとおりだよ。最初からこれじゃあ旅なんて無理だよ。キノ。旅人に一番必要なのは、決断力だよ。それは新人でも、熟練の旅人でも同じ。違う?」 「いいや、エルメス。それはきっと運だよ。旅人に一番必要なのは、最後まであがいた後に自分を助けてくれるもの。運さ」 人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅の話。短編連作の形で綴られる、今までにない新感覚ノベル第2弾!! 2000/10/10 発売
真っ白だった。 上も、下も、右も、左も、ただ白かった。 「見事に何も見えないな」 「見事に何も見えないね」 「でも、すぐにまた、見えるようになる」 「見えるようになるだろうね」 「ねえ。見えるようになって、目の前にきれいさっぱり何もなかったらどうする? ちょっと嬉しくない?」 「ああ。でも、そんなことはありえないことを、ボクは知ってるからね」 「晴れたら、どうするつもり?」 「そうだな……、ここにいても仕方がないし、ボクにできることもない。出発するだろうな。それだけだ」 人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅の話。短編連作の形で綴られる、大人気新感覚ノベル第3弾!! 2000/12/21 発売
歌声が聞こえる。そこは、紅い世界だった。 一面に紅い花が咲き乱れ、隙間なく大地を埋め尽くしている。 何もない、ただ蒼いだけの空が広がる。 ……紅い草原に、再び歌声が聞こえた。 そしてそれが終わった時、最初に聞こえた声が訊ねる。 「これからどうするの?」 別の声は、 「いつかと同じさ。どこかへ行こう」 すかさず答えた。 「そうだね。そうしよう」 最初の声が、嬉しそうに同意した。 そして言う。 「そろそろホントに起こしてほしいなあ。キノ」 人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅の話。短編連作の形で綴られる、大人気新感覚ノベル第4弾!! 2001/07/10 発売
そうーー。 この世界は美しく、そして輝いている。 ボクの心を落ち着かせ、なごませてくれる。辛いことを忘れさせてくれる。それが、ボクの心がおかしくて、狂っていて、壊れていることの証明だとしても……。 それでもボクは、そう思えることを幸せに思う。思える今を大切に思う。 さあーー。 ボクはこれからもこれを見続けよう。ボク以外の世界中の人が、これを美しくないと吐き捨てても。そう思うことが、これ以上ないほどの間違いだとしても。 ボクが、これを美しいと思うかぎり。 人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅の話。短編連作の形で綴られる、大人気新感覚ノベル第5弾!! 2002/01/10 発売
よくない道だねえ、と走ってきたモトラドが言った。後輪の脇には箱が、上には大きな鞄と丸めた寝袋とコート。旅荷物をたくさん積んだモトラドだった。でもやっぱりこれは近道だよと、モトラドの運転手が言った。黒いジャケットを着て、帽子とゴーグルをした十代中頃の若い人間だった。腰を太いベルトで締めたジャケットの前合わせは、初夏の風が入るように大きく開けていた。その下に、白いシャツを着ていた。人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅の話。短編連作の形で綴られる、大人気新感覚ノベル第6弾。 2002/08/10 発売
ーモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)の反対側で、運転手が草の上に座っていた。両足を前に出して、後ろに手をついて、そして空を見上げていた。春の暖かい太陽に、蒼い空を背景にいくつかの雲が流れていく。運転手は十代中頃で、短い黒髪に精悍な顔を持つ。黒いジャケットを着て、腰を太いベルトで締めていた。-人間キノとモトラドのエルメスは“動いている国”に出会い入国する。その“動いている国”が進む先には“道をふさいでいる国”があった(「迷惑な国」)。他全8話収録。短編連作の形で綴られる、新感覚ノベル第7弾。 2003/06/10 発売
「あー…」運転手が口を開いた。力のない声だった。「何さ?キノ」モトラドが聞いた。キノと呼ばれた運転手は、ポツリと「お腹すいたな」「だったら、止まって休む!空腹で倒れられたらー」モトラドの訴えを「はいはい。何回も聞いたよ、エルメス」キノは流す。エルメスと呼ばれたモトラドは「分かっててやってるんだから」呆れ声で答えた。「そもそも、あの国が滅んでいたのがいけない」カーブを抜けながら、キノが言った。-お腹をすかせたキノとエルメスが辿り着いた場所には、盆地の中央を埋め尽くすように、数百人の難民が集まっていた…(『愛のある話』)他、黒星紅白が描くイラストノベルも含め全8話収録。 2004/10/10 発売
空には、暖かい午後の太陽が浮かんでいました。なだらかで大きな丘を登った時、丘の向こうが見えた時、キノは驚きの声を出しました。「あれ? なんでだろう」急ブレーキをかけられて止まったエルメスも、「おや」やっぱり驚きました。そこには国がありました。広い草原に、城壁が見えました。白い城壁が、大きな円を描いていました。--キノとエルメスが辿り着いたのは、城壁が続く大きな国。そこに国があるとは聞いていなかったので驚きつつ、入国するための門を探して走り続ける。しかし……。(『城壁の話』)他、全15話収録。 2005/10/11 発売
そして、すぐに、キノとエルメスは大きな病院の前にさしかかった。玄関ドアの前に、数人の看護婦が見送りをするために並んでいた。さらに、一台の黒塗りの車が道に止まっていて、運転手がそのドアを開けるところだった。車の後ろにエルメスを止めて、キノはその光景を眺める。やがて、祝福の声に包まれて、病院から夫婦が現れた。若い二人は顔に笑顔を浮かべながら、夫の方は大きな鞄を、妻の方は、小さなバスケットをその手に抱いていた。夫婦はお世話になった看護婦達に何度もお礼を言って、幾人かと笑顔で抱き合った。(プロローグ「幸せの中で・b」)他、全16話収録。 2008/10/10 発売
キノとエルメスは、西に向かって走っていました。大地がほとんど岩なので、舗装道路並みに固いです。段差もなく、どこを走っても道になります。キノは快適にエルメスを走らせ、そして次に進路を塞ぐサボテンをゆったりと避けながら、「もともとは、師匠から聞いた話なんだ」「じゃあ、結構前の話だね」エルメスが言って、キノは頷きました。「だね。師匠はこう言っていたーー“とてもとても美しい廃墟があった。岩山の麓に石で作られた国があって、泉から引かれた綺麗な水がまだ水路を流れていた。今にでも何万人もが住めそうなほど綺麗な町だった”って」(第三話「過去のある国」より)他全10話収録。 2011/10/10 発売
人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅の物語。全10話収録。 2012/10/10 発売
エルメスが強奪されたーー。 『新しいあなたになりませんか? 新しいあなたになれます! 私達と! --“人生の真実を見つけるホウデンの会”』。 エルメスを奪った組織は、怪しげなテレビCMを放送する宗教団体のメンバーだった。しかし、その国には彼らのような宗教団体を手厚く保護する法律があって……。(「神のいない国」) その他、2013年4月より新聞紙上でウィークリー連載された話題の小説&イラストも完全収録! 書き下ろし8話を含む全18話という、シリーズ史上最大のボリュームでお贈りする「キノの旅」17巻。 2013/10/10 発売
最後の峠を超えたのは、昼過ぎだった。絶好の見晴台からは、巨大な盆地が一望できる。そこには、5つの国があった。キノとエルメスはゆっくりと近づいて、三日間の滞在許可を求める。 「ほう、旅人さんは盆地の国々を回りたい? ならば、とてもいい時に来ましたね」 「この盆地の国々の、四年に一度の大戦争がもうすぐ勃発するんですよ! 熱い、戦いの火蓋が切って落とされるんです」 「奇跡だよ!」 「大戦争、楽しんでいってね!」 (「スポーツの国」)他全13話収録の第18巻が登場! 2014/10/10 発売
記念すべき15周年に贈る、キノとエルメスの旅の物語。最新19巻が登場! 「師匠は言った。"私の長い旅の中でも、最も印象に残っている国の一つだった。あの国のことは、忘れようとしても忘れられない"って」「なるほど。あのお師匠さんが詳細を語るのをもったいぶるくらい、とても素晴らしい国だったんだね!」「または、一生忘れられないほど酷くて酷くて、ボクに伝えることすら憚られるほど、本当にどうしようもない国だったか……」「でもさ、すでにそれ以外に、どうしようもない国の話をたっくさん聞いているよね。すると、それら以上?」「うーん……。そうなると、もはや想像がまったくつかないね。なんにせよ、そこにボクがもうすぐたどり着けるというのは、嬉しい」 キノが言った時、城壁が遠くに見え始めた。 「さあて、どんな国だろう?」 キノが楽しそうに言って、エルメスのアクセルを開けた。 (「美しい記憶の国」他全12話収録) "あとがき"は15周年スペシャル×××××!! 2015/10/10 発売
「旅人さん!マニッシュな雰囲気がステキだせ!だから単刀直入に言うぜ!オレの彼女にならないか?」キノは、一人の男にそう話しかけられた。ガラガラだった店で生魚の切り身を美味しく平らげて、港に面した広い歩道にとめていたエルメスに近づいた時だった。「はい?」口調は若かったが、実際には四十歳は越えているだろう男だった。身綺麗で、暑い中、小洒落たジャケットを着ている。不自然なニコニコ笑顔で、「おっと、怒った顔も綺麗だぜ?」「いえ、呆れています」「だろう?呆れた顔も美しいぜ?」(「拘らない国」)他全11話収録。 2016/10/08 発売
ずしりと重い音と共に城門が開ききって、キノがエルメスを押していくと、彼等が喋っているのが分かった。その声が聞こえてきた。『情報通りです!旅人さんが!たった今入国しました!若いモトラド乗りで、モトラドは銀色タンクの渋い一台!革鞄には年季が窺えて、旅の過酷さを如実に物語っている!』彼等は喋っていた。キノとエルメスにも聞こえるくらいハッキリとした大声で。しかし、それは隣にいる人間に向けてのではなく、全員が視線をキノ達に向けたままでー。(「有名になれる国」)他全13話収録。 2017/10/07 発売
キノとエルメスは誰もいない街を走りーそして、国の南側で、一つのドームを見つけた。「よし、行ってみよう」そのドームへ続く道へとエルメスを傾けた。薄暗いドームの中には、平らな石の床が広がっていた。その上に、無造作に散らばっているのは、多種多様な白い骨。薄暗闇の中で、骨はまるで、ちりばめた宝石のように光っていた。「なるほど…」「一つ謎が解けたね」キノは、滅多に点灯させないエルメスのヘッドライトをつけた。ドームの床を、真っ直ぐな灯りが走った。「いくよ」「あいよ」(「餌の国」)他全11話収録。 2019/07/10 発売
「あの箱ですか?私達の永遠の命を守ってくれるものですよ!」国に入る前に、キノとエルメスは答えをもらいました。答えが全然理解できなかったので、キノが訊ねました。背広を着た入国審査官は、とても若い男でした。まだ二十歳前に見えました。彼は、それはそれは嬉しそうに、手続きそっちのけで説明してくれます。「あそこには、たくさんの国民達が眠っています!」「眠っている…?」キノが首を傾げました。「つまりまさかー」エルメスの言葉を、「墓地じゃないですよ!」入国審査官は笑顔で遮りました。「みんな生きています!ただー」キノが反対側に首を傾げました。 2020/11/10 発売