2004年3月発売
「青菜」のダンナにも「天災」の紅羅坊名丸を感じてしまう。これはきっと、柳橋の語り口がどこか、横町の心理学の先生みたいだからだろう。もしかすると『とんち教室』の影響もあって、そう思ったのかもしれない。「子別れ」は“上”に力点を置いて演じる。
「正蔵」の名で30年間活躍したのち改めて、初代「彦六」となった師の創作のもと、独特の人情ばなしが3つ。笑いをねらった内容でも話芸でもないが、この語り口と心情もって演じられると、その場の光景すら眼前に浮かび、胸をうつ。イイネェ…渋くて、名演だ。
明るさ、華やかさを持った芸は、良き時代の寄席の味を伝えてくれた。「味噌蔵」での酒盛りの場面、「野ざらし」の向島大騒ぎのオンマツなど、この人の軽妙洒脱な語り口は、さすが江戸っ子しかも元幇間。こういうタイプの落語家はもう出てこないんだろうな。
古典演目で修行を積んだあと、新作落語で芸道をきり開いていった今輔師。ここで聞かれるのは、いずれも師の口調や動作を念頭において書かれた代表作だけに、実にいい味している。師の枕からは、その時代が読めるし、十八番の「おばあさんもの」もさすが!
昭和36年と34年の録音だから、どちらも倒れる前のもので、師の見事な、計算を超えた芸、演技を超えた術が楽しめます。どちらかと言えば、やっぱり(1)でしょうか。とにかく遊女物はうまい。客との絡みが“まんま”なんであるね。やらせがない。えらい。
どこまでとぼけているんだかよく分からないというシトで、ラジオは良く聴いて笑ってましたが、改めて聴いてみると、なんとものんびりしたテンポと間の取り方が、今は確実に昔の世界になってしまっている。時代を超えるということはなかなか難しい。
芝の生まれという正統派(?)の江戸っ子らしく、歯切れよく早いテンポでたたみ込んでくるところが実に気持ちいい。二ツ目時代に「女郎買いのことなら照蔵に訊け」と大師匠たちに言わせたキャリアを、これから生かそうという時代に死んだのはまことに残念。