著者 : 中島久枝
「店の名前はポルトボヌール。幸せの扉って意味よ」派遣契約が終わった日の帰り道、バターと砂糖の甘い香りに誘われて詩葉が見つけたのは、千駄木の路地奥にある「ガレットとクレープの店ポルトボヌール」。アンティークな雰囲気の店を一人で切り盛りするのは、赤い髪の店主・多鶴さんだ。こだわりの詰まったガレットをひと口食べて魅了された詩葉は、4日間通いつめ、雇ってもらうことに。多鶴さんの焼くブルターニュ仕込みのガレットと謎めいた常連さんに囲まれて、独身、貯金なし、彼氏なし、35歳の詩葉の新たな生活が始まるー。疲れた心をおいしく癒す、連作短篇集。
おいしくも切ない味がする、江戸の料理をめしあがれ 蕪汁、桜餅、鮎の塩焼き……いま話題の女性時代作家による絶品アンソロジー 岡っ引きの茂七が、謎めいた稲荷屋台の親父が出す料理をきっかけに事件の真相に迫る「お勢殺し」(宮部みゆき)、菓子屋の跡取り息子なのに、菓子作りが下手な栄吉の葛藤と成長を描いた「餡子は甘いか」(畠中恵)、風邪で寝込んだお勝が本当に食べたかったものとは何かを探る「鮎売り」(坂井希久子)など、江戸の料理や菓子をめぐる短編六作を収録した、思わずお腹がすいてくる時代小説アンソロジー。
注文が増え忙しくなった牡丹堂に手伝いの女性がやって来た。年のころは三十過ぎ、背が高くて器量よし、さっぱりした気性で働き者。たちまち見世の職人たちの心をつかんでいった。女房のお葉を亡くして十年になる主・徹次とも、じきに親しくなってゆくのだが…。一方、小萩は新しい菓子の考案に頭を悩ませる日々が続いていた。菓子と人情の物語シリーズ第五弾。
湯島天神坂にある隠れ宿・如月庵。絶品料理に舌鼓を打って風呂に入れば、旅の疲れも浮世の憂さもきれいに消えると噂だ。ある日、非凡な記憶力で如月庵を支えてきた下足番の樅助が、客の名前を思い出せなくなってしまいー。温かくて元気が出るお江戸人情シリーズ第3弾!
若葉の季節。初物好きの江戸っ子にとって、初がつおが出回る楽しみな時季だ。一膳めし屋丸九のおかみ・お高や、手伝いのお近もかつおが待ち遠しい。そんな折、先代から丸九で働くお栄は、古くからの友達・おりきに誘われ、飲み仲間四人で割符の富くじを買った。渋々買ったその富くじが…(第一話)。またある日、近所の俵物問屋・長谷勝の若い衆が、丸九の豆腐を食べて腹をこわしたと因縁をつけに来て…(第三話)。かつおのたたき、豆ご飯、冷ややっこに小さな甘味…笑えて泣けて、とびきりおいしい傑作時代小説第二作。
西国の大名、山野辺藩から、牡丹堂に菓子の注文が舞い込んだ。小萩をはじめ見世の面々は晴れがましく感じながらも、なにやら落ち着かない日々だ。そんな折、もともと山野辺藩の御用を務めていた老舗の伊勢松坂が、何者かに乗っ取られた。主の松兵衛が相場で大損して、借金の形に取られたというのだが…。菓子の味と人情に心ほっこりする大好評シリーズ第四弾。
日本橋北詰の魚河岸のほど近く、「丸九」という小さな一膳めし屋がある。うまいものを知る客たちにも愛される繁盛店だ。たまのごちそうより日々のめしが体をつくるという、この店を開いた父の教えを守りながら店を切り盛りするのは、今年二十九となったおかみのお高。たとえばある日の膳は、千住ねぎと薄揚げの熱々のみそ汁、いわしの生姜煮、たくわん漬け、そして温かいひと口汁粉。さあ、今日の献立は?しあわせは、うまい汁とめし、そしてほんの少しの甘いもの。おいしくて、にぎやかで、温かい人情派時代小説。
日本橋の袋物屋のおかみが、隠居した父親を案じ牡丹堂に相談にやって来た。女房に先立たれて半年、ふさぎ込んだままだという。茶話会を開いて元気づけてやりたい。ひいては、甘い物が好きな父のために菓子を作ってほしいというのだ。小萩はご隠居の望みを知ろうと、三日にあげず通うことになるのだがー。季節の菓子と人の情。切なくて温かい好評シリーズ第三弾。
生まれ故郷の村に帰った小萩は、姉の婚礼の祝い菓子を作る。江戸でもっともっと菓子作りを学びたい。あらためてその思いを強くする小萩だった。ようやく戻った牡丹堂に、ある日颯爽と現れた一人の男。かつて見世にいた腕利きの職人だという。その男が、思わぬ騒動を引き起こしてゆくー。おいしいお菓子と人々の情に心がほっこりする、好評シリーズ第二弾!
時は江戸。火事で姉とはぐれた少女・梅乃が身を寄せることになったのは、お宿・如月庵。料理に舌鼓を打って風呂に入れば、旅の疲れも浮世の憂さもきれいに消えると噂の隠れ宿だ。クセ者揃いの奉公人と、ワケアリのお客たちに囲まれて、梅乃は新米部屋係として奮闘するがー。
なんて、きれいでおいしいんだろう。江戸の菓子に魅せられた小萩は、遠戚の日本橋の菓子屋で働き始める。二十一屋ー通称「牡丹堂」は家族と職人二人で営む小さな見世だが、菓子の味は折り紙付きだ。不器用だけれど一生懸命な小萩も次第に仕事を覚えていって…。仕事に恋に、ひたむきに生きる少女の一年を描く、切なくて温かい江戸人情小説。シリーズ第一弾!
あの菓子はまさしく稲妻だったー和菓子修業を続ける日乃出は西洋人のタカナミに出会い、西洋菓子に惹かれていく。日乃出と浜風屋の仲間との溝が深まっていく一方、浜風屋で働き始めた娘・葛葉は何かを隠しているようで…美味しい菓子物語第二弾!
時は明治2年。世の混乱と父の謎の死により店を閉めざるをえなくなった老舗菓子店ー橘屋のひとり娘である日乃出は、店を再建するため「百日で百両、菓子を作って稼ぐ」という無謀な勝負に挑む。勝敗の鍵を握る幻の西洋菓子「薄紅」のレシピを追い求め、日乃出は走る!