著者 : 吉田雄亮
八歳で逝去した第七代将軍徳川家継の骸が増上寺に納められてから二十年。その存在すら忘れられた世に、岡崎継次郎と名を変えた家継の姿があった。千代田城内で執拗に迫りくる暗殺の謀から逃れた彼は、葵の紋が彫られた名刀を手に、徳川の世を乱す悪漢どもに対峙する!
深川の寺社が相次ぎ押し込みに襲われた。どれも有り金を奪われ、皆殺しにされた凄惨なものだった。一月前にも置屋の主人夫婦が殺され、金品が強奪される事件が起きていた。その置屋から船頭と駆け落ちしたお登喜が、三年振りに深川に戻ってきたのを目撃されてー。深川鞘番所支配の大滝錬蔵は、十年前にも同様の押し込みがあったことを突き止めたのだが…。
仙台堀に、同心の恰好をした土左衛門が浮かんだ。深川鞘番所に詰める北町奉行所の面々は、その顔に見覚えがない。南町に問い合わせるもはかばかしい返事がなかった。だが、深川鞘番所支配の大滝錬蔵は、死体は失踪していた南町の臨時廻り同心だと突き止める。なぜ南町は即座に認めなかったか?背後に己の想い人お紋を巻き込む謀があることを知った錬蔵は…。
商人の娘と所帯を持つため、武士の身分を捨て、辻番人として生きる道を選んだ浅井源三郎。先任の辻番人頭が負傷し、源三郎が代わりに赴任した地は、浅草の薬師橋だった。ある日、源三郎は、橋のなかほどで職人たちに絡まれている女を助けた。お藤と名乗った女は、毎夜、橋で男を待っているという。だが、彼女と恋仲の男は、敵持ちの武士だったのだ。敵を見つけた男と、叶わぬ恋を願う女。源三郎は、二人を救うことができるのか。書き下ろし時代小説。
御家人の三男として生まれた浅井源三郎は、商人の娘・お千賀と所帯を持つため、町人となり、辻番人として生きる道を選んだ。それから二年、新たに本所三つ目通りの辻番人頭を命じられた源三郎は、その町で露店たちの強引な押し売りを目撃する。度を超えて脅迫めいた商売をやめさせるべく、露店頭の六右衛門と対峙する源三郎。だが、六右衛門には、弱き者たちを助ける心優しき一面が…。源三郎の人情裁きが人々の窮地を救う。
横須賀藩藩主・西尾直矩の行列の前に、風呂敷包みを抱えた子供が飛び出した。町人が大名行列の供先を横切るなど許されぬ行為。徒士が刀を抜いたその時、声を発して止めた者がいた。横須賀藩留守居役の高田兵衛だった。供先切をしてしまった豊前屋の音松は、納品先へ包みを届ける中、躓いて行列の前に飛び出してしまったのだった。音松の命を救うため、兵衛は奔走するが…(「供先切」より)。知恵と剣で人を救う好評時代小説。
横須賀藩留守居役の高田兵衛の許に藩内の刃傷事件の報せが届いた。藩士の中沢が妻女と密会していた男を斬り殺したというのだ。中沢は、妻女の幸代が婦道の罪を何度も重ねていたという。だが、幸代の兄弟たちの話は全く異なるものだったー。中沢の言動を不審に思った兵衛は、事件の真相を探りはじめる(「第一話婦道の罪」より)。商人として育てられ、庶民の心と武士の剣技を持つ留守居役が、人々の難事を解く、傑作時代小説。
横須賀藩の留守居役・高田兵衛は、双子の兄の病死により、商人として育てられながら、武士として生きることを運命づけられた者。その年の参勤交代の藩主江戸入りの日、兵衛の許へ藩の難事が持ち込まれた。国元の一行から、腹痛のためお供外しとなった藩士・田辺の行方が分からないという。田辺が騒ぎを起こせば、藩の名に傷がつきかねない。兵衛は安否を気遣い極秘に行方を追い始めるが…。書き下ろし時代小説。