著者 : 左近隆
秩父七ツ石山頂で、金穿師膳竜之助は、梓姫と名乗る首領に率いられる奇怪な一団と遭遇した。竜之助は老中水野越前守と目付鳥居耀蔵の密命を受け、幕府お直山の内情調査に従うお小人目付の一人であったが、叔父真鍋四郎右衛門こそ幕府を騒がす能面党の首領である、という意外な言葉を耀蔵から聞かされ、その能面党の探索を命じられた。長崎奉行所手付役人土方縫殿助と奸商大村屋十兵衛の罠に陥り、長崎屋甚兵衛は没落した。長崎屋の姉娘琴江は江戸へ出て、その名もお芳と変えた女掏摸になっていた。姉を尋ねて江戸へ向かう妹美保が、神奈川宿で般若の辰に襲われる危ういところを救ってくれた白羽二重に朱鞘の浪人こそ、“気まぐれ峻太郎”であった。-ご存じ、若殿峻太郎の活躍。
出世を夢見て二本松城下から江戸入りした二人の若侍国枝喬太郎と高力信吾が、浅草奥山の見世物やれつけ小屋で、示源流動場主阿弥亀九郎、師範代進藤典膳らの一行に難くせをつけられた危ういところを、南蛮秘薬のねむり粉を撒いて助けてくれたのは、小唄師匠のお艶とその手先の仙太郎であった。日本橋の丸見屋伝兵衛から借りた二十両の返済を迫られ困っているお艶を救うべく、喬太郎は仙太郎とともに賭場に出かけたが博奕に負けてしまった。喬太郎はそこで浪人小山田陣十郎と出会った。徳川を倒す陰謀をめぐらす怪人物が乗っている回天丸に陣十郎に案内されていった喬太郎の運命は。一方、信吾は長屋でおきよと過ごしていたが、阿弥道場の面々に可憐なおきよを暴力をもって奪い去られていた。
大奥女中を絹夜具の上で姦している前髪立ての若衆…すさまじい筆勢で描かれた秘戯画を深川いろは橋のたもとで密かに売っていたやくざ男の後を追っていた岡っ引きの万蔵が、やくざ男と浪人の一団に無惨に殺害された現場に出現した白羽二重の孤影は破月樹太郎。徳川12代将軍家慶の愛妾お以登ノ方の養父押田伊勢守石翁の向島下屋敷を訪れたのは、心形刀流の使い手雑賀隼人であった。権力者石翁とその腹心雑賀がたくらむ陰謀とは?破月樹太郎と名乗った若侍こそ、北町奉行白木左京将監を父とする白木峻太郎であった。人呼んで“きまぐれ峻太郎”ともいわれる颯爽たる若殿が秘戯画にまつわる江戸の怪事件に挑戦!狩野派絵師と京風土佐派絵師との争いの行方は?-興趣満点の時代長編快作。
江戸は両国の料亭で、年に1度の刺青競艶会が開かれていた。手長猿の刺青を妖しげに白い裸身に彫った蓬莱橋のお源が1番に選ばれようとしたとき、花川戸のゆき路が現れた。ゆき路の刺青は白粉彫りの緋牡丹絵図であった。その見事さにゆき路が1番に選ばれ、賞金百両を獲得した。ゆき路の供の北八が百両を持っての帰り道、突如出現した怪浪人は恐るべき左腕殺法の剣鬼、“名なしの権兵衛”こと海江田前鬼であった。絶体絶命、危機一髪のゆき路と北八の2人を、危うく救ってくれた白羽二重に朱鞘の若侍は“気まぐれ俊太郎”と名のった。そして、下総香取1万石、菊の間詰めの内田伊勢守正容の屋敷に誘い込まれたゆき路の運命は…?
神田川沿いの夜更けの寂しい道を小道具屋の喜三郎が刀箱の包みを背に歩いてきたところへ、山岡頭巾に面を包んだ怪しの浪人が出現した。峰打ちに斬られて刀を奪われたこの男を救ったのは、柳橋の芸妓お恵と白羽二重の着流しに朱鞘を落とし差しにした若侍であった。“気まぐれ峻太郎”と名のった若侍は、実は北町奉行白木左京の一子であった。若さま峻太郎がまき込まれた宝剣粟田口国綱をめぐる怪事件とは?直参4千石の大身駒木根大内記の用人仙石修理と愛妾おいくノ方とがたくらむ陰謀とは?黒羽二重を着流しにした殺し屋、剣客土門戒九郎と気まぐれ若殿峻太郎の対決は…。
“迷路の町”と呼ばれる一角の居酒屋に、浪人者が屯していた。その中に、鷹羽十四郎がいた!十四郎は将来を約束されている前途有為な青年武士であったが、なぜか無頼浪人の群れに身を投じていた。新妻とも別れた十四郎の身体に秘められている謎とは…。追っ手に後をつけられ逃走中のさよを救ってくれたのは、居酒屋の浪人たちであった。彼らの中にいた十四郎の姿がさよの胸に強く残った。執拗にさよを追う黒装束の忍者群を逃がれる火炎の中で、さよは帛紗包みを十四郎の手に預けた。それは、わが国土の一部をロシア国に売り渡さんとたくらむ陰謀者の面々の連判状であった。松前藩内の騒動にまき込まれた鷹羽十四郎の活躍やいかに…遠山金四郎も登場する伝奇時代長編の野心作!
大江戸の夜更け、谷中の教文字の新墓をあばいて取り出した白い裸身の美女の死体を前に怪しい40男が情欲を火と燃えたたせていた。と、いつの間にかその場に現れた幽鬼のような浪人の手練の一刀が40男を刺殺し、女の死体から首を切り取っていた。変わりはてた首なし死体を見て姉の志乃は失心した!寺に来あわせていた若侍が志乃を背負って家まで送ることになったが、2人の行く手を黒熊の彦三一家が取り囲んでいた。“大江戸無宿、姓は足柄、名は金太郎!”と颯爽と名のった若侍は、美女の死体の首を奪い去るという奇怪な墓あばき事件の真相を探るべく藤堂家の秘事に挑戦していく。あるときは桃太郎、あるときは金太郎となって天下の泰平のために働く隠密素浪人!
宿場外れの廃寺の中へ逃げ込んだ若侍を追って、八州見回り役の捕り方15、6人が本堂へなだれ込もうとした。そのとき、本堂の中から姿を現したのは、天蓋をかぶり、袈裟と偈箱をつけ、尺八をわしづかみにした1人の虚無僧であった!たちまちに捕り方を追い払って若侍を救った虚無僧は越中仏生寺村の産、仏生寺弥助。若侍は信州田野口の郷土、大塩中斎の一子格之助に生き写しによく似た椿四郎太であった。大塩党の反乱は裏切者の密告によって破れ、大塩父子自刃、側近瀬田清之進らも斃れた。天下の剣客斎藤弥九郎を兄に持つ越中浪人、剣豪仏生寺弥助の“恋を斬る剣”!