著者 : 柄戸正
現代のドイツと江戸時代の日本が時空を超えた一点で結びつく。本書はピルニッツ宮庭園の温室で毎年冬になると見事な花を咲かせる、印象的な椿の大木の物語。スウェーデンの植物学者で医師のカール・ピーター・トゥーンベリーは、かつて長崎の人工島・出島を訪れた。そこは18世紀日本とオランダとの唯一の通商窓口であった。オランダ東インド会社商館長とともに将軍拝謁のため、彼は長崎から江戸に向かった。滞在中、近代西洋医学の知識や最新の知見に興味を持つ多くの日本人が彼を訪ねて来た。しかし彼は、アムステルダムの教授ヨハネス・ブュルマンから、4本の椿をヨーロッパに持ち帰るという秘密の使命を帯びていた。大通詞の吉雄幸作は、彼がこの使命を果たすために助力する。(本書は、2012年万来舎刊『安永の椿』の英訳版) Germany today and Japan in the Edo period are connected by a point that spans time and space. This book traces the tradition of the impressively large camellia tree, which blossoms magnificently every winter in the exclusive glass house of the Pillnitz Palace Gardens. A Swedish botanist and doctor Carl Peter Thunberg once came to Nagasaki, to the artificial island of Dejima, which in the 18th century was the only window of access for trade and culture in the relationship between Japan and the Netherlands. An audience journey with the head of the Dutch East India Company took Carl Peter Thunberg from Nagasaki to Edo, the Japanese capital. During his stay there, he was visited by many Japanese who were interested in modern Western medical knowledge and the latest findings. Thunberg, however, had a secret mission to fulfil from Johannes Burman, his professor in Amsterdam, namely to bring four camellias to Europe. The Japanese Grand Master … Prologue 1. Carl Linnaeus 2. Johannes Burman 3. Engelbert Kaempfer 4. Africa 5. Japan 6. Journey to the capital Edo 7. Whereabouts of the Camellias Epilogue
岩手県大船渡市末崎(まっさき)町の熊野神社には、推定樹齢1200年とも言われる日本最大級のヤブツバキが現存している。 元は、境内の三つの方角に植えられていて「三面椿」と言われていたが、今は1本だけになっている。 大船渡市が位置する岩手県沿岸南部は、リアス海岸が広がり目の前には黒潮と親潮がせめぎ合う世界三大漁場といわれるところだが、暖流の影響か冬でも雪が少なく温暖で、一帯にはヤブツバキが自生しており、ヤブツバキの北限ともいわれている地方である。 この物語の舞台は、奈良に大仏が建立されようとしていた天平十六年にまで遡る。 大仏の鍍金には大量の金が必要だが、その当時日本では金がとれないとされていた。 そのため、宮城県涌谷で初めて金が発見されたことは大変な慶事とされ、聖武天皇年号を天平感宝とするほどだった。大伴家持はこの慶事を「天皇(すめろき)の御代栄えむと東なるみちのくの山に金(くがね)花咲く」と歌に詠んだのは有名である。 以来東北各地で金が産出されたが、特にも岩手県大船渡市を中心とした気仙地方は、昭和18年まで産金が続けられるほどに埋蔵量が豊かで、16世紀までは世界最大級の産金量があったとされるほどであった。これらの金はその後、平泉の中尊寺金色堂に象徴される奥州藤原文化の全盛期を支えたともされている。 この物語は、奈良の大仏の鍍金に使う産金を求め紫香楽に住む青年・築麻呂(つきまろ)がみちのくの産金を求めて奥州へ、そして気仙の熊野神社に来る物語である。途中大地震による大波で海に落ち伊豆大島に流れ着くことから物語がはじまる。 大船渡に現存する日本最大最古とされるヤブツバキと日本で最大級の産金を誇った気仙の産金を二つの縦糸にした、壮大な歴史ロマンである。 一 大仏建立 二 船 出 三 大 島 四 安房国 五 多賀城 六 採 金 七 国守交代 八 産 金 九 三面椿
現代ドイツから江戸へ。点と点は、時空を超えて今、結びつく。ドイツ、ピルニッツ庭園に咲き誇る巨大な薮椿。それは江戸時代、長崎を訪れたスウェーデン人植物学者が持ち帰ったものだった…綿密な時代考証と現地取材による壮大なる歴史ロマン。