著者 : 永井宏
美術作家であり、エッセイや詩を数多く残した永井宏さんは、数編の愛すべき小説も残していました。本書は2001年にサンライト・ラボから出版されて以来、静かに読まれ続けてきた作品の復刊です。主人公は何かが始まる予感を胸に、東京を離れ海辺の町、葉山で暮らしはじめたばかりのフードスタイリスト、志田エリ31歳。大都市と郊外、何かに追いかけられるような時間と、手を動かし、ものを作るささやかな生活……自分の価値観を誇りに海辺に暮らす人々と出会い、少しずつ解放され新しい時間を生きはじめた女性の姿を描く短編小説。「砂浜とボート」を併録。初版から20年以上の時を経て、なおこころに響く海辺のフォークロアです。 巻末には永井さんのワークショップに参加していた小栗誠史さんのエッセイを収録。 夏みかんの午後 1 海辺はいつもいい天気 2 波の上の散歩 3 イルカのキス 4 海辺のフォークロア 5 ハードハウス 6 バック・イン・タウン 7 夏の宿題 8 夢の庭 9 ニュー・ムーン 砂浜とボート 永井さんは文化の入口 小栗誠史
カフェ、音楽、雑貨、アート、詩、写真、花、料理…… 90年代のはじめ、湘南葉山の〈サンライト・ギャラリー〉を舞台に、 夢と憧れを手がかりにして自分らしい生きかたを模索する若者たちの姿。 舞台はアーティスト永井宏さんが湘南・葉山のはずれで1992年〜96年に運営していた〈サンライト・ギャラリー〉。海と山に囲まれた湘南で、永井さんの「誰にでも表現はできる」という言葉に背中を押されて、バブル以降の新しい価値観を求め自分らしい生きかたを模索する若者たちが集い、この場所からたくさんの才能が巣立っていった。 荻窪の書店「Title」店主の辻山良雄さんは著書『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)で『雲ができるまで』について書いています。「永井宏の文章をはじめて読んだときの静かな衝撃は、いまでもはっきりと覚えている。(略)自分の周りにもいそうな登場人物と、特別なことは何一つ起こらないストーリー……。「とても気持ちのよい文章だ」と思う一方で、このような文章がそれまで誰からも書かれていなかったことに驚いた。」 身のまわりの小さな出来事を見つめることで、日々の暮らしがかけがえのない時間に変わる。 ささやかでも自分で表現するということは、生きている実感を人まかせにしないということで、それが自分の人生を愛する方法になる。永井さんが伝えつづけたメッセージです。 「暮らすこと」をひとつの表現ととらえ、日々の小さな出来事やささやかなこころの動きを人と共有してゆくことの大切さを提唱したアーティスト永井宏さん。クウネル、アノニマ・スタジオ、天然生活など、2000年代に次々に生まれた〈暮らし系〉メディアの担い手たちに愛され、影響を与えつづけた永井さんの初期作品、初版から25年を経て待望の復刊です! 巻末エッセイ 堀内隆志(鎌倉 カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ店主) *本書はリブリポート(1997)、その後ブルース・インターアクションズ(2001)から刊行された同名書籍の新装復刻版です。 NINE FOLKLORE ひとつの巣箱 8 ふたつのバッグ 12 トレラタブレ 14 よっつの雲 18 いつつの風景 22 むっつめのカフェ 26 セヴンドッグス 30 やっつの夏 34 ここのつの洗濯 36 SUNLIGHT BOOK デイズ 40 カフェ 44 エンジェル 57 ハウス 68 ドア 77 レシピ 81 セゾン 86 シャンソン 96 フォトグラフ 105 レイ 108 シスター 117 エッフェル 127 ポモドーロ 140 ストア 153 スーパーナチュラル 164 ガーデン 174 ウクレレ 185 ペア 195 ディボース 201 オムライス 211 BEARSVILLE ガレージセール 224 アメリカンキルト 235 ブックストア 243 ポストカード 251 マイホーム 263 サンライト 271 あとがき 285 あたらしい雲ができるまで 288 90年代の永井宏さんのこと 堀内隆志 294 この本のなりたちについて 298
カフェ、雑貨、花、絵画、オブジェ…優しさと親しみをこめて生活やアートに接しようとする人たちの集うサンライト・ギャラリー。新しいフォークロアを求め、都会を離れ、海と山に囲まれた湘南に暮らしはじめた人たちの喜びと失意の日々を描く、待望の短編小説集。
眩く光り輝いて見えた過ぎ去りし日の夏の記憶。海は永遠にうねり、夏は決して終ることはなかった…。海と海辺に生活する人々と動物たちに限りない親近感を寄せて流れるように綴った掌篇小説群と散文詩。