著者 : 海渡英祐
『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』をテーマとして、7人の作家が紡いだ、傑作ミステリー。殺人、強盗、ホラー、パロディ、ユーモア…謎解きと言葉遊びに彩られた迷宮館へようこそ。
20世紀初頭、帝政打倒を叫ぶ革名党の動きが激化するロシア。首都ペテルブルクに駐在する海軍少佐・広瀬武夫は、日露開戦に備え軍事情報の蒐集にあたっていた。しかし公式身分のため表立った行動がとれず、政府は配下に民間人の北沢を起用する。北沢は過去を隠す謎の人物だったが、諜報活動は着実に成果を上げた。ある日広瀬は北沢と共に一人の革命家を訪ねるが、思いがけない殺人が起きる。長篇ミステリー。
南京落城翌年の上海。石崎中尉は上官の野田中佐から、反共論者・張徳全暗殺を命じせられていた。抗日のための国共合作が模索されている最中、事件を共産党の仕業に見せかけ、左右両派の分断を謀ろうというのだ。恋人の劉淑如を狙う野田が、敢えて自分を危地へ送ったのではないかと疑いつつ、石崎は単身、漢口へ赴いた(「謀略の背景」)。意外な結末と多彩華麗な世界を満喫させてくれる海渡ミステリー傑作集。
CM業界を舞台に自動車メーカーの宣伝室長と広告代理店の担当者、TV関係者と女性達をめぐる二件の殺人事件。現場はマンションの一室とエレベーター。しかも狭い箱のエレベーターの中で凶器として発見されたのは長い槍だった(第一話「殺人もあるでよ」)。ふだん、何気なく使用している空間ー別荘、書斎、寝室、トイレ、モーテル、廃屋ーを使い、巧みなトリックを駆使した推理短篇集。
維新の激動まだ鎮まらぬ明治11年。かつて海道一の親分と謳われた清水の次郎長もすでに老境、汽船会社や英語塾の開設に奔走していた。ある日、山岡鉄舟の紹介で寄宿した男、のちに「東海遊侠伝」で次郎長の名を広めた青年天田五郎。老ヤクザの親分と新時代の青年、この二人に持ち込まれる怪事件の数々。名推理でさばく絶妙のコンビが、明治の人情世情を鮮やかに浮き彫りにする傑作推理。
向かいのマンションの一室に明りがつくと、阪藤重夫はニヤリとして望遠レンズを構えた。足を怪我して動けなくなってから、向かいの娘を覗くのが趣味になってしまったのだ。ところがある日、恋人の理沙子からその娘・弘美を紹介され重夫は当惑する。意外にも弘美は、「部屋を見ていてほしい」というのだー。重夫&理沙子のカップルが次々と怪事件に遭遇。名探偵ぶりを発揮する、ユーモア・ミステリー連作集。
江の島海岸の岩場で二人の若い女性がハンカチで手を結んで倒れていた。睡眠薬による心中らしい。医師の妻と看護婦であった。看護婦だけが死ぬ。レズ関係が厭世感を高めたのか?それにしても妻が助かったのに、夫の医師はなぜ狼狽するのか?男女の心理的葛藤は殺意をも招く。その攻防戦を巧緻な筆で盛り上げる8編の快作。