著者 : 牧野千穂
村雲達6人のクルーメンバーは、そう裕福でない日々の中で捻出した費用で、念願の新艇を手に入れる。早速、三日月島をスタートに開催される外洋ヨットレースへの参加を揚々と決める。小笠原諸島近くのその島には申し分ないサービスを提供するホテルがあり、ヨット乗りには夢のような島だった。盛り上がる「大きな少年」たちを、時に辛辣な言葉をかけながらも温かく見守る家族や恋人たち。唯一の懸念は、きな臭い世情不安だけだった。メンバーの一人である諸橋は物理学を専門とし、政府のあるプロジェクトに加わっていたのだ。独身を通してきた村雲は、お礼セーリングに美しい女性輝喜を互いの愛犬二匹とともに連れてきた。若くてフリーターの洋平はシングルマザーとの交際を真剣に考え、ベテランの相原は自分の体力と人生の限界を感じていて、メンバーそれぞれがそれぞれの思いとともにレースに向かおうとしていた。準備のために三日月島に先入りしていたメンバー、しかし合流するはずの諸橋や家族たちが当日になっても到着しない。本人たちの携帯も通じない。やがて一切の通信も凍ってしまい……。世界で何が起きているのか? --切ない、心に迫る、ディストピア小説。 プロローグ 一 1 月天号のころ 2 白い貴婦人、現る 3 三日月の島 4 風に気づくとき ブレンダン・コーから村雲佑へのメール 二 1 それぞれの風 2 ソラとリク 3 お礼セーリング 4 不穏な風 メイヤー副支配人から神谷宗吉へのメール 三 1 支配人とシェフ 2 回航前 3 壮行会 4 星と釣りの海 村雲から輝喜へのメール 四 1 楽園 2 もう一つの青い空 3 やってこない人々 4 岸辺 5 前夜 エピローグ