著者 : 砧大蔵
日米両国に最新鋭空母が就役した。日本は『あさま』、アメリカは『ジョージ・ブッシュ』。グアム島沖で対抗演習をすることになった両空母だが、異変はそこで起こった。濃霧に包まれ通信が途絶し、コンピュータの日付は1944年6月18日を表示。日米の空母は太平洋戦争の最中に飛ばされてしまったのだ。『ブッシュ』司令のキンバリー長官は、あくまで米海軍は米国のためにあると、スプルーアンスの第5艦隊に味方することを決断する。一方、『あさま』は史実で大敗を喫した帝国海軍第一機動艦隊を援護すべく行動を開始した。決戦の火蓋を切ったのは『ブッシュ』だった。日本艦隊に襲いかかるF/A-18ホーネット。それを迎え撃つ『あさま』のF-35J。太平洋戦争の天王山マリアナ沖海戦を舞台に、日米の新旧艦隊が機略を尽くす熾烈な戦闘の行方は?才能を惜しまれつつ急逝した著者の最後の書下ろし。
爆破事故発生の知らせを聞いたとき、東郷敬介警部補の背筋に冷たいものが走った。爆発現場の文化センターで行われているピアノ発表会に、妻と娘が参加していたからだ。急いでかけつけたが、二人はすでに死亡していた。その後、爆発は事故ではなくテロであることが判明。犯人への怒りに燃えた東郷は、上司の命令に抗して、独自の捜査を開始する-。
「北朝鮮がミサイルを発射した。政府がマスコミ各社に伝えた」イヤホンでその情報を受け取った日比野は懐をまさぐり、携帯電話を探した。番組はもう、現場の実況からスタジオでの画面に切り替わり、畠山アナが臨時ニュースを読み上げていた。それは中継車のモニターからも見えていた。「ただいま、政府筋から入った情報によりますと、北朝鮮は我が国に向けて複数のミサイルを発射したとのことであります。どうか、国民の皆さんは落ち着いて行動して下さい」畠山アナの地味な姿が、読み上げるニュースと何ともアンバランスで、それが余計に恐怖感をそそった。
桃井防衛庁長官は思わず窓に駆け寄った。高層ビルに何かが命中して爆発が起り、続いてビルが煙を噴きだしながら崩落して行くのだ。震動は数キロ北方に位置する官邸にも響いてきた。汐留付近から有楽町にかけて爆発とビルの崩落が続いていた。トマホークだ!桃井防衛庁長官は咄嗟にそう思った。「総理、これは巡航ミサイルの攻撃です。小笠原付近に展開中の米機動部隊が発射しているんです」「撃墜できないのか?経済の中心をやられたら、日本はお終いだぞ」鷲田総理は桃井防衛庁長官に詰め寄った。
平成の日本列島が、太平洋戦争の真っ只中にそっくり時空漂流してしまうという、前代未聞の超常現象に直面して、日本は大混乱に陥った。現代日本の軍事システムは、少数の高性能破壊兵器を前提に構成されており、一時に数百機のB29に攻撃される可能性など全く考慮されていなかった。そのため最新鋭兵器を装備しているはずの自衛隊が、旧米軍を相手に大苦戦することになった。航空自衛隊は、日本本土攻撃を中止させるために、マリアナ諸島の米軍基地を完膚なきまでに破壊した。大戦を早期に終結させるため官房副長官の滝川治は、連合艦隊の伊藤長官に同行して戦艦大和に乗りこみ、中国との休戦に成功する。いよいよ本腰で日米講和にとりくむことになった日本政府だったが、アメリカは態度を硬化させるばかりだった。頼みの綱であるはずのアレン・ダレスの行方はいっこうにつかめない。日々刻々とアメリカが日本に原爆を落とす日が、近づいてくる…。鬼才・砧大蔵が豊富なデータをもとにシミュレートする架空戦記の傑作、第3弾。