著者 : 神吉拓郎
中高年が主人公のショートストーリー集。-私の見てきた商売の裏側を、洗い浚い書いちゃおうと思うの。…今お偉いさんになっている連中が、実名で、ばんばん出てくるのよ。みんな、青くなるな、きっと…-夜の店のママが、客の行状を洗いざらいぶちまける回顧録を書いていると聞いて、やましいところのある元常連たちが“対策協議会”を開く「近火御見舞」をはじめ、妻の浮気が原因で別れたのに、浮気相手に捨てられると元夫に秋波を送る女性に振り回される「あとの祭」、社員からも恐れられ、“財界の狼”と異名をとる男が、ひょんなことから海辺の町の女性と出会い、心癒される「狼男」など、中高年男性を主人公にした17のショートストーリー。P+D BOOKS『曲り角』に続く、味わい深い短篇集。
昭和の会社員の哀歓悲喜を描く短篇集。女癖が原因で失踪してしまった元同僚と旅先でばったり出会い、相変わらずの暮らしをしていることを知らされる「病気」。空襲で亡くなった同級生の墓参りと、その寺にまつわる悲しい話を綴る「涅槃西風」。借金で首が回らなくなっている男と、そうとは知らない二人の平凡なサラリーマンの“最後のゴルフ”の様子を描く「トラブル」など、17の作品からなる短篇集。昭和のサラリーマンが抱える孤独、不安、悲しみ、ささやかな喜びなどが、短い文章のなかに凝縮されており、懐旧の情が掻き立てられる佳作。
ー世間というものはおそろしいな…庭をちょっと作り変えれば、どこかおかしいと思われるし、他愛のない絵を描けば変態扱いか…そういう自分たちの、どこが正常だと思ってやがるんだろうー定年前後の男たちが、庭の作りかえや裸婦画、プラモデル作りなどに熱中するが、周囲にはまるで理解してもらえない悲哀を描いた「積木あそび」、ナイフやフォークを持つときに相手が小指を立てていたという一事で見合いが流れてしまう「小指」、病気で倒れたお偉いさんのため、好物だという鰻を熱々の状態で届けたが、どんでん返しに遭う「鰻」などなど、中高年の悲喜劇17篇を収録した名作短篇集。
自らを「瑣事観察者」と自称する神吉拓郎が、都会の日常生活の裏側ー“私生活”に潜むちょっとしたドラマを、歯切れのいい文章で活写した短編集。ある真面目な銀行マンが、夜には別の一面を垣間見せる「つぎの急行」、平凡なサラリーマンが、会社のカネの横領を企む「警戒水位」、ラブドールに入れあげる初老の男に訪れた悲劇を描く「小夜子」、真面目だと思っていた家政婦が衝撃的な素顔を見せる「もう一人の女」など、17のエピソードを収録。第90回直木賞受賞作。
雑誌で取り上げられた小料理屋“二ノ橋 柳亭”の場所は誰も知ることができない。なぜなら、食味評論家が書いた架空の店だからだ。ところが、「柳亭を探し当てた」という読者からの手紙が編集部に届き…。(表題作)代表作「ブラックバス」など全七篇を収録。繊細と洒脱が織りなす物語の妙に酔う、直木賞作家の粋が詰まった極上の短篇集。