著者 : 野口心
心臓と紫煙のカタストロフ心臓と紫煙のカタストロフ
夜の街を流離う青年。あてもなく。何かを求めるように。朧げな電燈に照らされたそこで、哀しき殺人者の姿を見た。ナイフが彼の心臓をとらえ、僕の目の前で彼は死んだ。人が死ぬという瞬間を初めて見た。深淵に滴る朱殷にどうしようもなく惹きつけられた。その美しさに夢を見たような気がした。霞んでいた星が初めて輝いて見えたような気がした。生命の螺旋が解けるとき、僕はとろけるほどの快楽に満たされる。生きること。生きていること。たったそれだけのことが。たったそれだけのことなのに。たまらなく苦しいと感じてしまうのはなぜだろうか?これは、純粋な悪に陶酔した青年の物語。
PREV1NEXT