著者 : 颯手達治
時の老中筆頭松平越中守定信は、世に賞罰に厳しい、“隠密老中”として名が高かった。従弟の又兵衛は故あって“田安”の名を変え、“岩佐”と名のって市井に住み、定信の密命を受けて働いていた。その岩佐又兵衛が乗り込んでゆく先は…。駿州田中、本多四万石の領地へ急ぐ岩佐又兵衛と女芸人お志奈・お梅・松江・お蘭・おちかたち美女一行、邪剣が又兵衛をねらっている。-本多藩の世継ぎを巡って錯綜する騒動に乗り込んだ岩佐又兵衛、正邪糾弾の活躍は。
江戸の街は初午(陰暦2月の最初の午の日)でにぎわっていた。江戸市中には大小4、5千からの稲荷社があり、それが初午の日には朝からいっせいに笛太鼓ではやしたてるのだから、まるで雷鳴のとどろきの中にいるようなもので、そんな喧騒に圧倒されでもしているように街角に立っている若侍があった。まだ24、25歳で、無紋ながら黒羽二重の柔らかものを着た気品のある若侍で、名を春野草四郎といった。その春野草四郎、烏森稲荷で知り合ったよろずの茂七という町人とともに、殺人事件の渦中へとまき込まれることになった。事件の謎と、春野草四郎なる若侍の正体は…?-事件は上州館林6万石は秋元家の世継ぎをめぐる2派の暗闘に連っていた。
六郷の渡しの河原で、女にも見まがう若衆が屈強の浪人輩に取り囲まれていた。危ういところを救ってくれたのは、空腹に困ってその場に寝転んでいた若侍倉間勝太郎であった。助けられた若衆は川路鮎之介と名のったが、その正体は女と勝太郎は見抜いていた。事実、川路鮎之介こと鮎姫は遠州掛川5万石は太田備中守盛澄の孫娘であったが、江戸へ向かう道中で、家重代の秘宝“群れ千鳥の懐中鏡”を何者かのために奪われてしまった。それは、ばてれん忍者甲羅弾三郎の仕業であった。忍者を操る恐るべき黒幕とは…。婚儀にまつわるもめごとに反発する鮎姫を助けて、「お鮎ちゃん」、「鮎の字」とまるで長屋の小娘でも呼ぶような気安さで接する倉間勝太郎なる若侍の正体とははたして…。