騎士爵家 三男の本懐(1)
この国の騎士爵家の三男とは、家の為に献身を求められ、やがて民の為に死ぬ運命にある存在だ。
私には前世の記憶と、幸いなことに持って生まれた『ギフト』があった。
その恩恵のおかげで私は王都の魔法学院に入学することができた。
華やかな貴族社会で羽目を外す婚約者を尻目に、私はただひたすら学院の環境を活かして、家族のために己の研鑽を積む。なぜなら、彼らは前世で経験したことのない愛情を私に与えてくれたからだ。
民草を護り、王国の安寧に寄与すると壮大で殊勝で矜持に満ちた父や兄達とは違い、私にはそのような大それた信念は無い。ただ、私を愛してくれた者達が安寧に暮らしていける手段を求め続けているだけだ。
だから、買い被りはよしてくれ。
私は、辺境の子であり、騎士爵家の三男であり……自分の名前すらわからない「名もなき」存在なのだから。
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王都の魔法学院で研鑽(けんさん)を積んだ私は、成人の儀での「茶番劇」を目の当たりにした後、故郷である辺境の騎士爵家に帰還した。だが、到着早々に我が実家では予想外の事態が待ち受けていた。敬愛する長(おお)兄様が魔の森で負傷し武人として再起不能になり、それにかこつけ大叔父が父上に騎士爵位の譲位を迫っていたのだ。 精神的にも追い詰められた長兄様と接触し、その胸の内や家族の苦境を知った私は驕慢(きょうまん)な大叔父に立ち向かうことを決意。騎士爵家の「あるべき姿」を取り戻すために、次(ちい)兄様や父上ら家族を巻き込み、大叔父をこの騎士爵家から追放するための大仕事に着手する。 そして、我が騎士爵家の領土と切っても切り離せない「魔の森」の脅威。王都での研鑽を活かした脅威への対抗手段を着々と用意していた私の、指揮官としての「初陣」が近づこうとしていたーー 2025/11/29 発売