ゆらゆら橋から
憧れ、初恋、上京、旅立ち…今はコンクリート製だが、かつては粗末な木の橋だった。橋桁がゆるんでいて、人が乗るとふわふわと揺れた。子供たちはゆらゆら橋と呼んだが、大人たちのなかには戻り橋というものもいた。この橋を渡ってからよそから村に来た女は、この橋を渡って村を去っていく。こんな風説が健司の子供のころ、村中でささやかれていたことがあった。健司の脳裏を、去っていった身近な女性たちの顔がよぎる。女の心はゆらゆら揺れない。ゆらゆら揺れるのは男のほう。『コンビニ・ララバイ』から2年半、情感豊かにつづられた“ゆらぎ”の物語。人は一生に何度、恋をすることができるのか。