神の汚れた手(上)
舞台は三浦半島の小さな産婦人科医院。主人公の医師・野辺地貞春の下では、不妊治療や出産、中絶と、さまざまに行き交う人々の喜びや苦悩が日々交錯している。なかでも中絶手術は、戦後、患者が公に語ることなく行われてきた大規模な水面下医療であった。産婦人科医は生命の誕生に立ち会い、そして同時に中絶という形で一つの命を消し去るという、特異な職業である。その日々の現場を綿密な取材に基づき、淡々と描くケーススタディは圧倒的なリアルさで、小説という概念を超える。生命の尊厳を鋭く問うた“衝撃の問題作”上巻。