怒濤逆巻くも(下)
“海国日本”を夢見た志士の生涯
咸臨丸で太平洋往復を成し遂げた笠間藩士の息子・小野友五郎は、旗本・小栗忠順の後押しもあり順調に出世。ときの将軍家茂に謁見したほか、小笠原諸島の実測や、国産蒸気船の製造を主導するとともに、大型の国産船を建造すべく、横須賀製鉄所(造船所)の実現のために尽力していた。
続いて、幕府船の調達のために渡米していた友五郎は、帰国すると勘定奉行並に昇進。すべてが順風満帆に思われたが、将軍・慶喜の大政奉還、王政復古の発令で、忠順や友五郎の築き上げたものが音を立てて崩れはじめるーー。
幕府内部からの改革を推進してきた開明的技術官僚の生涯を、史実に基づきながら描き切った長編の完結編。
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幕府船初の太平洋往復を成功に導いた男 --咸臨丸は蒸気を焚いて、午後三時三十分、浦賀を出航した。……しばらく木村も勝も甲板に立っていたが、風と揺れに耐えられなくなり、船室に降りていった。……友五郎と浜口が羅針盤をのぞいて針路を確認しあっているところへ、万次郎と福沢諭吉がやってきた。-- 数学や測量に造詣の深い笠間藩士の四男・小野友五郎は、開明的な旗本の子・小栗忠順と出会ったことをきっかけに、幕府の海軍伝習所に入所。やがて遣米使節団を乗せるポーハタン号に咸臨丸が随行することになった際は、その航海長として、幕府船初の太平洋往復を成功に導く。 勝海舟、福沢諭吉などの陰に隠れてスポットライトを浴びることのなかったテクノクラートに光を当てた大作の前編。 2024/11/14 発売