提灯奉行
十一代将軍家斉の正室寔子の行列が愛宕下に差しかかった時、異変は起きた。真夏の炎天下、白刃を振りかざして襲いかかる三人の刺客。狼狽する警護陣。その刹那、一人の武士が馳せ参じるや、抜く手も見せず、三人を斬り伏せた。武士の名は白野弁蔵、表御殿の灯火全般を差配する提灯奉行にして、御目付神保中務から陰扶持を頂戴する直心影流の達人だった。この日から、徳川家八百万石の御台所と八十俵取り、御目見得以下の初老の武士の秘めたる恋が始まる。それはまた、織田信長を“安土様”と崇める闇の一族から想い人を守らんとする弁蔵の死闘の幕開けでもあった。