剣聖伊藤一刀斎《秘剣見山》
眼前に、三十余名の敵がいた。一刀斎をぐるりと取り囲んでいた。殺気をみなぎらしている。多数をたのんでいた。強敵と見たのであろうか、直ちに打ちかかろうとはしない。燦々とふりそそぐ陽光のもと、一刀斎は、キラリ、軽く腰をひねって愛刀・一文字を抜いた。余裕を覚えた。一刀斎の眼は、おのれを取り囲んだ敵の背後の緑の山なみを見ていた。〈見山〉を試みるときだった。書下し剣豪小説第三弾。
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流人の子、罪の子よと囁かれ、うしろ指をさされて成人した伊藤弥五郎は、新天地を求め、父の形見の木刀を背に、大島から伊豆半島へと泳ぎ渡った。背丈高く、筋肉は隆々とし、15歳とは見えぬ弥五郎だが、飢えと疲労のあまり倒れてしまった。だが、三島神社宮司の矢田部伊織に救われ、その庇護のもと、剣の修行にすごす弥五郎の前に、異形の剣士李八官が立ちはだかった。雄渾な筆致で描く書下し剣豪小説。 1990/09/01 発売