その糸を文字と成し
急速に近代化が進む明治時代前期、小谷家の奉公人・種吉は不安定な身分ながらも、桑を刈り、蚕の成長を見守る日々に充実感を覚えていた。しかしある時、同郷の友人・壮介から学問の奥深さを見せつけられる。壮介の奉公先である深沢家は、民間の憲法私案である「五日市憲法」の起草に関わるなど、進歩的な家だった。種吉は壮介の影響により、学びに無関心な主人に内緒で知識を深めようと決意する。そんな折、家出したはずの小谷家の長男・直助が突然帰宅。種吉は東京帰りの直助から文字を習うようになる。一方、世間の景気は次第に陰りを見せはじめ、雇い止めされる奉公人も増えていた。不安が高まる種吉に対し、社会状況の悪化を「人為的な不況だ」と考える壮介は、新たな仲間と共に社会を変革しようと先鋭化し、危機的な状況が迫っていたー。