「あの外套はいったいどこに消え失せたのだろう?」-遠い昔に失われた一着の外套を探して、〈記憶の迷路〉を巡る“わたし”。その記憶と現実とに挾み撃ちされた姿を通して、鋭く現代の存在の不安を描出した問題作。
20年前に北九州から上京した時に着ていた旧陸軍の外套の行方を求めて、昔の下宿先を訪ねる1日の間に、主人公の心中には、生まれ育った朝鮮北部で迎えた敗戦、九州の親の郷里への帰還、学生時代の下宿生活などが、脱線をくり返しながら次々に展開する。 他者との関係の中に自己存在の根拠を見出そうとする思考の運動を、独特の饒舌体で綴った傑作長篇。 1998/04/10 発売