能の名作「善知島(うとう)」を素材に、人間存在の無明の深淵をあざやかに浮き彫りにした表題の傑作のほか、古典より材を得て、自在かつ縦横に小説世界を構築した、人間凝視の鋭さに満ちた著者の代表的短篇集の待望の文庫化。
みちのくの外ヶ浜という浜に、善知鳥という名の珍が棲むという。自分を狩った猟師を、地獄で迎える鳥だそうだ。生きてる時は、黒い柔らかな羽毛に包まれた、お腹の真白なかわいい鳥だ。殺されると、恐ろしい金属の化鳥に変わる。嘴を鳴らして、猟師の肉を裂き、骨をつついて、どこまでも追い廻す。…表題作より。語りのたくらみによって物語の妖しい戯れを紡ぎ出す待望の短篇集。 1988/08/01 発売